各支部のニュースから
各支部のニュースから
| 2005.9.1『おおさか支部ニュース』「たのスポ一番搾り」原稿 生活体育が取りもどすべきもの ―特集「これからの体育実践を考える」を読む― 大貫耕一前研究局長の勇退論文「私たちの考えるこれからの体育実践と同志会」に「キーワードは生活体育」のフレーズを見て…軽いショックがあった。半年前森委員長の「21世紀型生活体育」の語にお目にはかかっていたが、大貫が言うと時代は変わったんだという実感があった。そして、そのことは３本の実践が何よりも雄弁に語っていた。「これからの実践」なのに、それがもう載っている。同志会年度替わりに強いメッセージの号が出たもんだ。情勢の大きな変化と、教育課程研究による主体の変化が合わさって、大きな潮目ができている。 小山明吉「一人ひとりが光る集団マット」はクラス替えの中２四月に置かれている。学級と担任の生活の必要がピッタリ噛み合って、単元の進行と学級づくりが一体で進んでいく。「技能的には中学年」、「側転も川跳びが精一杯」でも「方法は考えればいくらでもある」。ウォーターボーイズの世界を本当は子どもたちは求めているのだ。集団マットの良さは子どもたちの言葉が言い尽くしている。 制野俊弘「私が出会った３人の子どもたち」では、半身が不自由で低身長のＡ君がいたことが、制野に「身長の低い者を疎外していく」というバレーボール発展史の新たな見えを促す。願いを込めてこれを教えた子どもたちが、教師を超える発想で、今度はＡ君の発達を引き出していく。子どもたちの文化力に感心させられる。 日外千景「ぐるん、ぐるん」は「感覚づくり」に焦点を当てた授業の反省記。１年生の身になって、子どもたちの技と言葉と感覚と動きが誠実に、繊細に、分析的に捉え直され、初心の実践で、教師が子どもに何を見出し、育ってゆくのか、日外の内言が生き生き綴られている。 生活体育を打ち出したのは慧眼だ。これに対し国家は「健やかな体」を持ってきた。指導要領主査・高橋健夫の「楽しい体育は失敗だった。これは文科省の見解でもある」は政治的発言だろう。路線転換をはっきり打ち出すことに意味がある。仮に９条「改正」ということにでもなれば一気に強面体育に変わることは織り込み済みだろう。そうなれば教育法規も指導要領も教科書も大改訂だ。「健やかな体」はその繋ぎで、露払いではないのか。生活体育が体を張る本当の相手は21世紀型軍事教練であることを見通しておいてよいだろう（特集外だが岩崎英夫のていねいな「中間研究集会報告」は勉強になった）。 「一人ひとりが光る」小山のＭさん、「同志会の存在価値を問う」制野のＡ君（それに泣いたＫ氏）。60年代の「泣いたオモちゃん」（仲間の「がんばれ」に泣き出した９人制バレーの後衛。技術指導の系統性研究を促した）を思い出させる、久しぶりに子ども像のくっきりする実践記録だ。同志会の財産がいまどのように使われるべきなのか、それを教えてくれる実践だ。 ３実践は誰が人を、子どもを大切にするか、粗末にするかをはっきりさせる。対抗実践のイメージをクリアにしてくれる実践だ。私たちはこういう教育実践を「これからの体育実践」と、父母に自信を持って言い切ろう。大貫がいうように「体育の授業を地域保護者へ公開すること」だ。それは腕前を見せることではなく、どんな思いで、どんな子どもを育てているのかを見せるということだ。「これからの体育実践」は「市場に開かれた学校」を「父母に開かれた学校」に取り戻していく対抗実践であることを肝に銘じておきたい。 石の上にも３年のつもりが、０５大会にほだされて、１年延長戦を引き受けてしまった。一応お勤めは果たさせていただいたかと思う。作り手でもあり、辛口評を課してきた。「たのスポ賞」特別賞を戴いたことは以下のこともあり、望外の励みになった。 書かれたことだけを手掛かりに、存じ上げない方々にまで手厳しいことを文字にして、不愉快な思いをさせたこともあったかと思います。お詫び申し上げます。ご執筆の皆様ありがとうございました。（浪 速男） |
| 2005.3.5『おおさか支部ニュース』「たのスポ一番搾り」原稿 ２：０から３on３へ ―05.３号「戦術を教えるボール運動」を読む― 戦略戦術の指導は戦術の必然を促すため、まず防御戦術を教える。攻防空間をボールの攻防局面である１層から遠い方へⅡ層、Ⅲ層と区分けし、それぞれの層でプレス、マン、ゾーンの防御の基礎戦術を順次取らせ、それを破るパス、フェイント、ブロックの攻撃の基礎戦術が積み上げられる。実際の練習はパス、レシーブ、ゲームメイクの攻撃機能と、マーク、カバー、コートバランスの防御機能が学習できる最小単位である３on３でなされる。 これまで変数が多すぎて初心者には処理不能と思われてきた高次の技術内容の教材化が精力的に進められ、基礎戦術として整理されたことにより、子どもは最初から攻防セットで、ゲームというものを全体性を失わない形で学ぶ。 「守りをがっちりしておけば、相手は苦しまぎれにしか打てない」。かつて５年のバスケでこのようなことを書く子はなかった。「バランスのよいディフェンスの方が相手の動きを読む必要性が低いし、自分の役割を把握しておけばたいていの攻撃は止められる」、「中～終盤は敵の特徴や癖に合わせたディフェンスを組んで対応できるようになった」。高校生のこのような認識にも触れたことはない。「ラリー時ネット近くに密集することなく…Ⅲ層目に必ず２人は構えていて、チャンスボールはほとんど拾え、ノータッチエースが少なくなった」（佐藤・起田）。評者もラリー率1.0を越え全員アタックのバレー実践はやってきたが、2:0からインプットするとやがてぶつかる壁を、初めてバレーボールをした中学生が順調に乗り越えている。最初から集団での防御、これに対する攻撃の戦術をセットで教え、早くからゲームというものの全体像を獲得させているからに違いない。 面白いのは防御といってもいきなり３人全員がアタッカーあるいはＱＢめがけて襲いかかるようにプレスにいくという超攻撃的な防御戦術から始めることだ。フラッグフットでは防御によるゲインを得点化している。防御に能動性を込めた教材解釈で、単元終盤の子どもたちは合唱や群舞のように防御のハーモニーを楽しんでいるようにさえ見える。それは子どもたちがゲームの全体像を持っているからだ。防御の高まりや全体性の獲得は様々な効果を生んでいる。バレーでは「防御技術が高まることはラリー数の増加につながり、攻防シフトの切り替えや、様々なプレー機会が増え、結果的に技能習熟にもつながっていくのではないか」（同前）。個人の技能は味方・敵・ゲーム・学習仲間全体の中に位置と意味と関係を持ち、能動的に習熟される。面白くてもっとやりたくて、どんどん身に付く。これが習熟本来の姿だ。すべての点において達成は早いと思われる。 しかし子どもたちの学習活動は戦術学習のためすべての外乱要因を削ぎ落とし、徹底してコントロールされる。スナップバックはなしでセンターはボールを持てない。同じ防御戦術を３度続けなければならない。どこまでも教える授業だ。生活課題の臭いすらなく、這い回る生活主義は完全に駆逐され、従来のグループ学習論に一石を投じる。それに替え教材解釈や手順はどこまでも論理的で周到だ。当初の決め事学習も子どもたちは結果によって応えられる。戦術を身につけ始め、ゲーム事態にチーム集団が自ら対応する力をつけ始めたとき、子どもたちの自由度は一気に高まる。戦術学習はここからまだ書かれていない戦略学習に発展する。 森敏生「なぜ、戦略・戦術を教える必要があるのか」がこれに応えている。グループ学習と社会統治能力の長く遠い懸隔を埋める理論的提起と読んだ。 多忙の中読み通すには歯応えがありすぎたが、このたった27ページを徹底的にものするだけで、ひとつ次元の高い球技指導に到達できる。それくらいの質と密度を持った首尾一貫の一冊である。地方の15人くらいの中学生が、少数派の商業高男子達がこれだけの認識を綴っている。時代を拓く高質な実践研究がローカル発信されている。じゃまじゃまサッカーもまだまだ進化できる。 （浪 速男） |
| 「同志会東京№３５０（２００５年３月号）より 子どもを大切にしているたのスポ （加藤 日月） 初めて校内の体育の年間計画を作ることになりました。今までは各学年の担当者が考えていたのですが、６年間を見通した学習内容にしたいという願いから校内の体育部が提案することになりました。提案するときに役立ったのは、たのスポです。フラッグフットボールって？ マット運動で１０時間以上も使っていいのかな？ 様々な疑問に答えていく時、教材の価値や子どもの変容のわかるたのスポをもとに考えを言いました。まだまだ研究中ですが、昨年より少しでも、子どもたちにとって、みんながわかり、できる体育、友だちと結び合える体育になればと思います。 さて、１２月号に掲載されていた現代遊び考、その第４章はとても興味深いものでした。私のクラス（４年生）でも遊びの中でよくある罰ゲームは本当に必要なのかということを考えたことがありました。罰ゲームについて、「やりたくない人だっている」「罰ゲームをやれば盛り上がる」「本当はやりたくない人だっている」「みんなお前で何かやるのが好きな人はいいけど」「みんなが楽しめなくなる」と様々な考えが出されました。ほとんどの子はなければいいと思っているのです。それなのに、どこかで覚えたこの罰ゲームというものを否定できず、仕方のないことだとあきらめているのです。遊びの文化、スポーツの文化、様々な文化を伝えるものが、常に子どもたち一人ひとりが大切にされるものでなければと思います。 |
| たのスポあいち №３４７（２００５年３月１日発行）より ２月号はいかが？ 読みましょ たのしい体育・スポーツ ベースにあるもの ｢教材・教具から見えてくるもの｣が特集テーマである。教材や教具を扱っているからといって、ただ目新しい教材や楽しそうな教具が紹介されているというわけではない。 巻頭言で長野の小山さんはこう述べている。｢…新しい教材・教具にとびつくのはいいが、その教材・教具で教えられることと教えられないことを明確にしておく作業を忘れてはならない…｣と。｢ダッシュ君｣や｢とべちゃう輪｣（本誌参照）を開発したりバスケットゴールを体育館に作ってしまう小山さんのこの言葉は説得力がある。 同志会では当たり前の発想なのだが｢授業研究を進めるとき、まず教科内容があり、次にそのための教材や教具をどうするかという方向へ考えを進めるべきである｣（小山）という基本的な“押さえ”が実践にしっかりと位置づいている証左なのであろう。 堤さんも、教材論を語りながらも｢…教師の主体性の喪失は『単元設定の理由』を自分で考えないということに留まらず、自ら文化や科学の研究をしなくなるということであり、素材とした文化から教科内容を引き出すという作業を自ら行わなくなるということを意味している…』（本誌p９）と小山さんと同様、教科内容（研究）の重要性を強調している。 教材・教具といった“方法レベル”の問題を、教育実践の「目的」や「内容」と一体のものとして捉えているところが「たのスポ」らしさであり、同志会らしさであると言えよう。 羨ましき「おごりの春」 そうした“押さえ”をしたうえで「実践のひろば」を読んでみると、したたかで、しなやかな実践像が浮かび上がってくる。 北海道の中村さんの「長靴アイスホッケー」も、ただ「北海道の冬」という気候的条件だけでなく、きっちり教科内容がベースにある。保護者や地域を巻き込んだスケールの大きな実践に教科内容を貫くというのは多くの困難を伴うが、中村実践では、そのあたりの折り合いの付け方が実にしなやかなのである。本文の小見出しにある「中西別の子どもはみんな泳げます」という言い様に羨ましいほどの自信を感じさせてくれた。 「その子二十（はたち）櫛に流るる黒髪のおごりの春のうつくしきかな」（与謝野晶子）の心境に近い。 それは茨木則雄さんのハードル走、竹内由美さんのペットボトル投げ、また障害児分科会の実践群にも共通する感触であった。 時は早春、ちょっと早い「おごりの春」に心地よい刺激を受けることができた。 成瀬 徹（猿投農林高校） |
| 同志会ひょうごNEWS ２月号 より たのスポを読んで 伊藤 明子（西播ブロック） たのスポを読み始めて数年目の、一読者として思うことは、「どんどん読みやすくなっている」ということです。 もちろん定義や歴史、流れ、文化研究などの理論が大切なことはよくわかってはいるけれど、活字が続くと、ついつい「また今度読もう。」と仕舞い込んでしまっていたのです。しかし、どんどんバージョンアップしてきて、写真あり、図あり、実践も豊富なので、読もうかな（すいません）という気持ちになってます。 私は、最近一年生の担任が多くて、低学年向きの実践をよく読んでいました。２００３年のvol２１運動文化研究の小学校低学年部会で、森田先生（埼玉支部）が「自然の中で遊ぶことが減ってきている。鬼ごっこ、ボール遊び、ジャングルジムに登ることを嫌がる、できない等、入学前の取り組みの違いによる差が大きい。」と書かれていましたが、まさにその通り。鉄棒遊びで「ぶたの丸焼き」や「こうもり」をして、逆さ感覚を養おうと思っても、鉄棒にお腹をつけて、足を離すことさえできない子もいて、年々、体験不足による運動能力の低下を感じます。そんな時、２００３年３月号の山内先生（埼玉支部）の二年生の実践、お話鉄棒を読みました。ねこちゃん体操から鉄棒おっこち大会、鉄棒遊びへと楽しみながら鉄棒運動をされている実践に、とても感動しました。このまま高学年でも続けていけるねこちゃん体操は、ぜひ取得したいものです。機会があったのに実技に参加できなくて残念。どなたかビデオを持っておられませんか。 今年度は五年生担任で、１学期は器械運動、２学期はボール運動をしました。一番心に残ったことは、ソフトボールです。クラスの４分の１の児童は野球部に入っていて、元気というよりやんちゃな子が多いのですが、ソフトボールのときは、野球部が４つに分かれて男女混合のチームを作り、バットの持ち方から、ボールのとり方、ルールなどチーム毎に指導していました。「女子のときはゆっくり投げて」などと考えながら、あのやんちゃな子どもたちがリーダーシップをとってすすめることができていたのが感激でした。この時期にこそ、「フラッグフットボールで、子どもたちをつなぐ」の岨先生（兵庫支部）のように、集団で伸びていく喜びを実感させることが大切なのではないかと思っています。 |
| たのスポあいち №３５５（２００５年２月１日発行）より １月号はいかが？ 読みましょ たのしい体育・スポーツ アフォーダンス １月号はもう読まれましたか？ 今月号は「アフォーダンス」の特集です。たのスポあいちの１月号／研究局のページに「あほうダンス？」と取り上げられていた、あのアフォーダンスです。 新しい技術論ですので、たくさんのページを使って解説が試みられています。 「新しい」といっても、このアフォーダンス（生態学的知覚論）は、４０年代にギブソンという人がアメリカのパイロットの知覚研究をしたところから始まっているのだそうです。４０年代というと太平洋戦争末期ですね。その理論が運動技術の習得を考えたときに有効であるということで、新しくクローズアップされてきた、どうもそんなところのようです。 小学校の実践に役立つのか 多くの紙面を割いて座談会をやっています。愛知支部からも堤先生や成瀬先生も参加して意見を述べています。P１６からの「アフォーダンスの可能性」と題した部分が私には比較的分かりやすく読めました。 堤先生も成瀬先生もアフォーダンスの考え方がこれまでの同志会の考え方や実践とどのように結びつくかという視点で述べています。 これまでに飽き足らない 大阪の榊原先生が編集後記でふれているように、初動負荷理論しても、二軸理論にしても、アフォーダンス論にしても、これまでの技術論に飽き足らない新しい「うねり」の表出であることは間違いないと思います。 しかし、残念ながら『スポーツ科学の教育現場への応用という観点ではなく、運動学習論の再構築に資するものにしたい。』と述べる榊原先生の知的レベルに、私は全く達していません。 自分の目の前に網走刑務所の塀が立ちはだかっている感じです。だれか私が爪先立てば見える程のところに「アフォーダンス理論」を引きおろしてくれませんか。 （砂谷 元彦） |
| たのスポあいち №３５４（２００５年１月１日発行）より １２月号はいかが？ 読みましょ たのしい体育・スポーツ 「たのスポ」１２月号は、なかなか読みごたえのある内容だった。 「今どきの子どものあそび」と「わが子のくらし」を、小学校教諭、幼稚園教諭、親、学童指導員から発信してもらい、「じゃれつき」（子どもとの触れ合い）、「とっくみあい」（身体接触）、「ぶつかりあい」（利害関係の対立や精神的衝突）について、その意味と必要性について考えるという特集を組んでいる。 巻頭言の「子どもの発達とじゃれつき・とっくみあい・ぶつかりあい」、論考の「現代あそび考」、解説の「幼児期の発達の源泉としての愛情・情動」、実践のひろばの「園長はやっと５歳児の天才になったね」、そして「今どきの子どものあそび」と「わが子のくらし」の発信を解説した「今の子育ての“しんどさ”の根本を考える」を絡み合わせながら読んでいくと、この特集の意図がよくわかる。 また、病院訪問教育についてを物語風に書いている特別寄稿「同行する人」は、引きこまれるように読んだ。 二人の教師のやりとりは、映画「学校」のワンシーンを見ているようでもあった。そして、二人のやりとりは、子どもの発達にとって重要な「信頼できる他者」の存在、ひいては教師の存在の意味について考えさせられるものであった。 二人のやりとりを以下に少し引用。 「子どもたちが育っていくためには、『信頼できる他者』が欠かせない――よな」 「はい、そう思います。」 「（他者）は、親であったり兄弟や祖父母であったり、友だちであったりするんだけど。我々がそうした存在になれるかといえば、それはとても難しいことだ、と俺は思っている。」 「教師は、信頼できる他者にはなれない、ということですか。」 「いや、なれない、というわけじゃない。」 こんなやりとりがあり、 「教師は同行者――。シンプルすぎる、そしてずいぶんほっそりとした教師観だが、自分はそう思っている。」 と筆者は語る。 この特別寄稿の筆者である権田純平さんは、『１５メートルの通学路』という本を出版している。合わせて読みたいものである。 （山本 秀人） |
| 2005.2.2『おおさか支部ニュース』「たのスポ一番搾り」原稿 足りぬ足りぬは… ―05.2号「教材・教具から見えてくるもの」を読む― 授業でストップウォッチが１個しかなければ、それは管理の道具になってしまう。リングが４つも同じことだ。バスケの本質を握る物的条件が１万円で手に入る。それで授業が変わるなら、あとは手作り。それも含めて教育実践というのだ。小山吉明巻頭言「教材教具の開発から教えたい内容が見えてくる」を共感を持って読んだ。 ゴムホースを10cmに切った（ゴーマーク）だけでリレーの本質が誰にも過不足なく共有される。呼吸の量を見えるものにし、子どもに遊ばせ、小山は１本のゴムホースから水の文化史・水中呼吸の授業へと発展させていく。中学生にかかれば紅白球は投げるし、ホースはくわえる。モノがアフォードする世界に導かれながらの意外が頭の中だけで考えたはずはない創意溢れる実践を生み出していく。教具は何をこそ教えたいのか、突き詰めた教材の本質解釈から着想され、これを客観物として表現する。それは純粋に発明であり、文化の創造だ。小山は教材教具の開発自体を遊んでいる。 評者は先月号の本コラムで「会のすぐれた教材教具・指導法の開発史は潜在的なアフォーダンス論発展史でもある」と記した。２月号は堤吉郎「教材・教具開発の視点」で１月アフォーダンス特集に接続する。教具の工夫とはよりよいアフォーダンスづくりであり、そのことは障害児体育分科会「教具をこう工夫した」で容易に理解されるだろう。 読者は注意されたい。ここまで書いたことは基本的に非言語の過程だ。同志会において教具とは非言語の認識過程に働きかける道具であり、意味の発見によって習熟を促す認識の補助具だ。習熟とはためつすがめつモノに働きかけ、対象の性質をつかみながら、働きかけそのものを洗練させていく過程である。「できる」と「わかる」はそれほど距離のある現象ではない。モノが持つ意味によって何らかの「できる」が引き出される。それは意味理解が学習者の最近接領域に入ったということである。同時にモノによって最近接領域そのものも子ども集団に共有化されることに注意を向けておきたい。教材の本質を具現する教具にはそれほどの深い意味がある。 小山は教具開発を遊ぶ過程で障害児体育のように子どもと教師で実践発展の最近接領域を共有し合っている。その「子どもと共に創る授業」に体育の対話の実践を見る。堤がヴィゴツキーと佐藤学を引いて、体育の対話の実践を明示的に構想している。 誰が見ても小山は非管理的である。子どもの自由な発想を尊ぶ姿勢がある。その囚われない柔軟さが教師単独の教材研究より子どもをさらなる高みに導く。同志会定型に縛られない小山の新しさはここにある。 ことはいつでも自由の問題につながっている。物言わぬ教師をつくる時代に対話の実践が「不当な支配」への強力な対抗となることを見通しておきたい。教師はどんな重度の障害児からも学ぶことができるし、モノとも対話できる。 すぐれた教具は環境に埋もれたアフォーダンスをよりよく発見させ、みんなにその意味が見えるものにする。そこに固有の価値がある。本質が共有されること、情報公開。それは民主主義の根幹だ。往々にして大切な情報ほど独占され、コントロールに用いられる。 戦時下「足りぬ足りぬは工夫が足りぬ」という国民精神総動員の標語があった。この張り紙を一字消して軍部への痛烈な批判に転じた有名な作品→「足りぬ足りぬは夫が足りぬ」。環境に新たな意味を発見させる素晴らしい教材だ。 子どもに貧困を強いる「工夫が足りぬ」とは「自由な精神が足りぬ」、「対話が足りぬ」、権力性への「省察が足りぬ」ということでもある。 中村訓子の長靴アイスホッケーは国民（町民）運動文化の創造に新鮮なイメージを喚起する愉快なレポートだった。地域カリキュラム論などの特集で再登場を。 （浪 速男） |
| 2005.1.2 おおさか支部ニュース「たのスポ一番搾り」原稿 もっとアフォーダンス ―05.1「新しい技術論と学校体育」を編む― 今回に限り編集後記を。この特集は昨年２月に出発した。発端は２軸論の小田伸午「運動科学」のプロローグだった。そこには２軸でなく認知論が書かれていた。思い当たるフシが多く、認知論の本を探した。「知覚はおわらない―アフォーダンスへの招待」にハマった（04.4本欄参照）。 その勢いで５月のヴィゴツキー学習会に被せて予備座談会を持ち、６月に京都支部の２軸論学習会に参加した。小田氏の講義を聴き、７月には同氏の『運動文化研究』の原稿を読んだ。「運動科学」は技術論としては学ぶべきものが多く、とりわけ「ターンオーバー」論には「腰の回転を含むキック」（同志会の陸上運動基礎技術規定）を改めるべきことを解した。しかし学習論としては氏の「翻訳」説では同志会のグループ学習論が混乱するだろうなと思ったのが正直な感想である。 一方のアフォーダンス論には次のような閃きがあった。 我々が（運動学習）環境の持つ意味を掴むことで、初めて子どもの側から「できる」「わかる」を問い直すことができる。学習主体である子どもの「わかる」「できる」が、つまり子どもの運動発達というものが、どのようにして生じてくるのかを、環境という客体の側から説明できる。アフォーダンス論にはそうした着眼があった。それはまた筆者の時空間論ともぴったりと重なっていた。アフォーダンス論は時空間論を有効のまま学習論に発展させることができる。これは現場的な運動学研究、発達研究に大きな視野を開いてくれると直感した。 授業とは広く通用しているような、教師が教材を教えるものではない。教師によって教材で子どもが学ぶものである。教師も教材も媒介者であり、媒体であり、これらも含めて環境である。子どもが学ぶのは事物との対話、他者との対話によってである。事物との対話を介して教師やクラスメート、親と対話し、他者との対話を介して事物との対話を深めるのである。私なりに捉えるアフォーダンス論（生態心理学、生態学的知覚論）における主体と環境の相互交渉とはそうした営みだ。 事物との対話とは、例えば「曲がった走路の方が遠心力に抗わねばならず、子どもに働きかけてくれ、からだ（筋感覚）で走路を体感しやすい」（榊原義夫「体育実践とアフォーダンス論の可能性」）などであり、これらはすべて非言語の過程だ。アフォーダンス論の摂取は、からだと環境の直接の相互交渉というレベルでにまで現象を捉えさせてくれ、上のような着眼や発想を助け、教材論、学習論、授業論の視野を格段に広げてくれる。アフォーダンス論は技術論であるより運動発達論であり、身体論であり、習熟論であり、学習論である。習熟を学習の基盤に置く体育ならばこそ、この最新の認知科学を学習論に援用できる。特集は新しい技術論から新しい学習論の方に重心が移っていった。 ここで、当初は同じ重みで企画していたナンバ・２軸に附言しておこう。 江戸時代まで、もっと降れば国民生活が完全に西洋近代の生活様式に覆われ尽くす高度成長期まで、人々がナンバの所作で生活していたというのは本当だろう。ナンバは重筋労働を人力でやっていた、あるいは重いものを遠くまで自分で持って運ぶしかなかった時代の生活技術であり、ロコモーション（移動運動）スタイルであった。試しに相撲の四つに組んでみよ、あるいはざるを積み上げた一昔前のそば屋の出前でも、カップ一杯のコーヒーを持って走るのでもいい。たちどころにナンバ・２軸の走法になることがわかるだろう。言い換えれば、その時代にはナンバのアフォーダンスがあったのである。ナンバの消失にはライフスタイルという文字通りの生活環境の具体的な変化があったのである。 本編で榊原は多様な走路の空間認知の問題を「時空間論」から追究しているが、２軸・ナンバ等「動きの指導」というなら、多様なモノを持って歩く・走るのも面白い。前者はアフォーダンス論でいう空間の「見え」の問題、後者は「ダイナミックタッチ」に属する問題の解明につながるはずだ。京都のロコモーション実践（花田純香「歩く・走るの基礎的感覚づくり」04.10号）など実践研究の場でもかなりなことができそうだ。福井でも追究が始まるだろう。 体育の雑誌がアフォーダンスを特集したのは初めてだろう。この耳新しい概念が通じる話になるには、各教材種目の何がどうアフォーダンスなのか、網羅的に再解釈をしなければならない。しかし辻内俊哉「私はこう考える 障害児教育の立場から」のセイフティーボードの一事例を見るだけで障害児体育の実践開発がいかにアフォーダンス論に立っていたかが理解され、また自覚されるだろう。私たちはすでにこうした取り組みをたくさんやっている。おそらく会のすぐれた教材教具・指導法の開発史は潜在的なアフォーダンス論発展史でもある。堤吉郎「器械運動の立場から」は今後の各分科会教材論のガイダンスのように、器械のアフォーダンスをコンパクトにまとめている。 アフォーダンス論は幼児の運動発達、障害児の運動学習指導に、またできる子とできない子の何が異なるのか、グループ学習の相互観察～技能獲得場面に多くの着眼を与えてくれるだろう。堤はここでも習熟の時間や集団（人的環境）の必要や意味を示唆する考察を進めている。 吉田隆「スポンジテニスをアフォーダンス論で分析する」や舩冨公二「じゃまじゃまサッカー開発における学習環境の設定」は陸上・器械・水泳・障害児ばかりでなく、オープンスキル系の種目へのアフォーダンス研究の突破口を開いてくれている。 現場研究を進めるには子どもが初めてスポーツ文化に出会う時のうまくなり方、主体と環境との相互作用による運動の自己組織化過程を集中的に着目・記述する必要がある。教師はふつう「教え」がどう摂取されるかには敏感だが、子どもから引き出そうとする者は、子どもの中から現れてくるものに敏感でなければならない。アフォーダンス論を能動的に摂取し、子どもと事物との対話による技能習熟プロセスに緻密な観察眼を持つことが大切だ。体育関係者にアドバンテージがある間に研究に着手しないと、やがてスポーツは認知科学者の草刈り場となってしまうのではないか。そんな気さえするくらい体育実践研究との相性はよい。 吉田は「フォーム学習しないでも教師の提示の仕方によって技術習熟は進められると悟った」と「新しい授業づくりの視点」を考え始めている。舩冨は10月ヴィゴツキー学習会で「アフォーダンスは第一次のシンボルやねんな。そこが見えてなかったな」と語った。すでにアフォーダンス特集は論争次元から新しい学習論・授業論への一歩を印している。まずは誌面「座談会」末尾に記した３冊を薦めたい。 （浪 速男） |
| 2004.12.4おおさか支部ニュース「たのスポ一番搾り」原稿 子どもの発達と時代の制約 ―04.12特集「じゃれつき・とっくみあい・ぶつかりあい」を読む― 秋野勝紀「現代あそび考、その４章」に多くを学んだ。バツゲームばやりの昨今、日本の遊びには「排除することを喜ぶ文化」がある。秋野は遊びに「競争、対立、排除が多いのは、明治以降の近代国家に進む過程で軍事国家として戦争を続け、学校に軍隊文化を持ち込んだ影響」＋「民族や言語が容易に了解可能な」文化の同質性から説明する。なるほど！お上の統制により作り上げられた島国根性・村八分遊びなのだ。「そこから外されないように懸命になることで遊びを高揚させ決着」するドッジボール好きも、根深い精神性を曳きずっているらしい。 紹介された「物的環境と遊びの特質」からする仙田の６つの分類はカリキュラム論に有効と思える。しかし実社会で「この分類が有効だったのも70年代まで」「場自体がセパレートされ、子どもから遊び空間が喪失」、「消費文化が中心の」「都市型の暮らし」へと続くくだりで、「子ども期の喪失」（子どもの権利条約カウンターレポート）の語が浮かんだ。 なるほど、歴史的に見ると子どもの自発性も時代・環境の大きな制約の下にある。「遊びを貧困にさせている」「文化の質を吟味する必要がある」。冒頭の指摘が腑に落ちた。遊びから集団の葛藤と自治による成長という発達機能を奪い、アミューズメントのみに特化した消費文化としての遊びには「技と測定できない問題解決の力が育つことは期待できない」。「機能が明確な空間で、それに合う遊びを」…それは遊ばされだ。「遊びの種類が限定され、スポーツの比重が大きく、しかも早期から」もその一種と見ておく用心深さが、体育の研究団体には要る。 「子ども専用テレビ20％ 、ゲーム用コンピューター37％」（01年）。パソコン、ケイタイはおもちゃより安い時代に入る。さらに急速に普及するだろう。秋野は佐世保の同級生殺人事件も解明している。「ネットという点と点が水面下でするコミュニケーションを利用して」「子どもが深夜にパソコンに向かうあそびの分野が存在してきている」。「子どもと大人の境界が溶解しており、商品という形で広がる現代のあそびの特徴」であり、「子どもにとっては、生活と心に占めるウェイトは小さくない」「遊びとして使うことは容易でない」。あの事件のＨＰは加害児童の分身ともいえる。ここを荒らされるのは人格侵害の度合いも大きい。事件の解明にはマスコミが報じた特異性とは別の論理も必要だ。当初から気になっていた問題に初めて応える解説に出会った。 ここで、いじめ、不登校、引きこもりを想う。６％が軽度発達障害と国の文書が明示（04.11.26特別支援教育・中間答申）し、引きこもり100万人とも言われる時代に入っている。社会性の障害が炙り出されてくるような今の社会状況は急テンポで子ども観のさらなる変更を私たちに迫っている。一口に発達危機の時代と呼んでいいような、子ども観の上でも大きな時代の転換期に差しかかっているのではないか。その大きさに引き較べ、会の発達論に正木らの「おかしさ論」や、相変わらずの「母原病」を思わせる論調が払拭されていない。「前頭葉の発達に異常が」、だから○○を式の補完型矯正型の対策的プログラムがかまびすしい。なぜその異常が生じているのか、原因の原因まで解明しないと、対症療法の無限循環で、子どもは救われない。「これがキレる子を増加させている可能性は否定できない」（鐘ヶ江淳一巻頭言）などの次元ではなく、事態はもっと切迫しているという認識が示されなかった。保志史子「幼稚園から」に報告される「子どもたちは共通して、自分中心で人の言うことは聞き入れず、自分の言うことを聞き入れてもらえないとカッとする、暴力的になる、癇癪を起こす…など、人との関わりでとても苦労しています」。私たちは幼児からのそういう生きにくさが、思春期にどれほどのものとなるかということまで考え、研究のエネルギーを子ども達の生きにくさそれ自体の解明に向けなければならない。それは自身の「問題」児観を問い直すことから始めなければならないだろう。山本秀人の意（編集後記）に反し、特集は同志会子ども論・発達論の出発点を記したに過ぎない。（続く） （浪 速男） 子どもの発達と時代の制約 （続き） ―04.12特集「じゃれつき・とっくみあい・ぶつかりあい」を読む― 高田敏幸「園長はやっと５歳児の天才になったね」に代表される自然主義保育では、五感をいっぱいに働かせ子どもたちは育っていく。しかし実際にはそのような自然環境（秋野の言う「里山空間」）は石巻でももはや日常の遊び空間ではなくなっているのだろう。孤軍奮闘している高田のところと対照的な「不自然な」姿がとうに一般になっているのだ。 飛田茂「指導員の保育日記」は学童保育ならではの異年齢集団が無理なく生かされている。昔の子ども集団に近い質と思えた。子ども集団の内部矛盾によって発達させる。断片しか語られていないが、そうした視点や全体的質を感じさせるのは飛田実践だった。大人の管理下の民主的集団ではあるけれど、親は安心して託せるだろうなと思わせる。生活指導融合型の体育実践が参照しうる自治の指導が行われている。子どもの育ちが子どもを育てる、今では学童保育にしか得られない縦型の異年齢集団という条件が丹念に膨らまされている。しかし保育の経営も保育士の生活も厳しさを増していることだろう。あと知恵に過ぎないが、特集はもっと苦闘しながら切り拓いている、その実相を解明していく方針がほしかった。 鐘ヶ江淳一巻頭言は、曖昧な言い方ながら育ちそびれの原因のひとつに「家庭の基本的機能の低下」をベネッセ未来教育センターの調査を引用してあげている。並べて「４歳児以上おおむね30人につき一人配置されている保育者自身も、目の前のことへの対応に追われ、多忙を極め」ともしている。軸足はどちらにあるのか。いやこれらはそもそも並列できるものなんだろうか。 附属養護の校長でもある二宮厚美（神戸大）に拠れば、大手塾ベネッセとは次のような存在だ。 「東京が今それです。福祉が先取りされ規制緩和で公立幼稚園・保育園が民営化される。厚生労働省の運営負担金がバッサリ切られ、一般財源の交付税で面倒見ますよということになったんです。実際上交付税が削減されているので各自治体は大わらわです。福祉が（教育より）先に民営化され、三鷹ではベネッセなどに保育園を委託しました。公共施設ですよ。60名で１カ所1.6億かかる公立保育園をベネッセが、何と半額以下の7900万円で落札しています。どうしてそんなことができるのか。教育・福祉施設の経費は圧倒的に人件費で、保育園も学校も人件費が80～85％です。すべて保育士は園長から一般の保育士に至るまで全部１年の契約社員です。上にたてつくことできない管理されたマニュアル保育になっちゃうわけですよ。こういう人達の給料は高い人で20万円から低い人で15万円まで、平均17万円の給与になりました。いま自治体関連社員が増えています。パート・派遣のフリター層の年収200万円の典型はベネッセ型がモデルにされている。ここにはさすがに年収200万円の人はいないでしょ。年収200万円でこれからは保育も、教育も、福祉もできるんですよという流れができ、そこに向かって専門的仕事を担う側の条件を揺り動かしているわけです。削減される地方交付税の中、自治体基準の維持にはまず人件費が問題になってきます。しかしこういう施設は定員が減らせない。私の付属養護は60名の子どもに30名の職員がいますが、学校に来る施設の職員は「先生方はよろしいわ」と言います。福祉の施設では、作業所レベルでは一人が20名、30名を見ています。しわ寄せはそこへ行きます。全国的基準を守ることが非常に重要です」。（「特別支援教育とこれからの養護学校」04.12.1難波養護学校における講演）。 なるほど未来教育センターの「未来」とはこういうものかと思わせる。親の不安定就労を加速させ、子どもたちを追いつめながら、その立て直しも市場でしようという大手塾・保育産業。この手の積み木崩し産業によって子育てそのものの消費文化化という最悪の循環がつくられ、資本が動き、受益者負担が動く。あらゆる分野で進行する規制緩和政策・構造改革とはもともとそういうものだ。問題の根底はこういうところにある。その「保育（教育）民営化」のマーケティングリサーチ情報によって異形の発達論までもがつくられる。保育士にかかる大きな淘汰圧で何が淘汰されるのか。市場化論は共通して専門性というものを成り立たなくさせてしまう。それは結局子どもに還る。追い詰められる子育て状況にあって、私たちはもう一度皮相的な社会理解、子ども理解を一からやり直す必要があるのではないか。 同志会は70年代、80年代、90年代、00年代にそれぞれどんな子ども像や発達観をつくってきたというのだろう。教育課程試案はトータルとしてどんな発達像を提示しているのか。教育課程試案が仕上がって、やっと子ども論に目が向いたところで、子どもの生きる現実の、深刻さの度合いは桁外れに深まった。同志会はさらに遅れをとっているように思える。子どもの現状と楽天的なカリキュラムのギャップは大きく、会の実践論はリアリティーを欠いていると言えないか。体育・スポーツの研究団体として、この問題にどんな包括的な答を用意しているのか。そんな議論が会員みんなの議論になっているのか。学校が悪い、保育所が悪い、教師が悪い、親が悪い、子どもが悪い…、本気で弱いもの同士のつけ回しの連鎖を断ち切ろうとしているのか。本当に教育実践から父母との共同を喚び起こそうと思っているのか。子ども研究の遅れを自覚すべきだろう。 評者はじゃれつき・ぶつかりあい・とっくみあいを否定したいわけではない。より包括的な問題を立て、その中で高田や飛田の実践を論評してほしい。そこから同志会子ども研究が現代社会へどのような発信をしたいのかが問われているのだ。＜子ども・子育て・発達＞を＜教授－学習・教育実践＞との関係で、教育課程論へどう統合するのか、ひときわ問われている今日の状況がある。そのような視点や理論が充分示されたとは言い難い。 危機の中にも胚胎する芽を育てることなしに、現実的有効性を持ちうる発達研究はあり得ない。子どもを見ずして、子どもに働きかけずして発達論は語れない。溢れる消費文化の中で、子どもたちはそれをもどう生かして、けなげに遊んでいるのか。消費文化の中にも発達の道筋を読みとるようなアプローチも必要だ。この点では中西新太郎の言説に学ぶべきものは多い。青年論を積極的に幼少期、思春期以前に援用してみる必要があるだろう。ＩＴの民主化などの論題を立て、ここにも発達論を見いださなければならないと思える。もちろんヴァーチャル時代の体育・スポーツの積極的意義も（手放しではないけれど）まっすぐに追究して良い。 評者自身は今は障害者サイドの言葉である「ノーマライゼーション」の見地から、危機の中に発達の道筋を切り拓いていく必要があると考えている。特別支援教育の積極面として認識しておいて良い。 同志会発達研究がからだ論や発達論をリードする自生的でオリジナルな「民主化・科学化」の論を未だ持ちえていない。小学校現場もこの件ではあまり主張がない。本当にそうなのかという留保はつけておくが、会の子ども観・発達観の現状がよく示された特集だったと言えよう。自身は89「臨教審下の子ども像」、93「子ども観の再創造を」、95「子ども・生活から文化研究にひとこと」などから、子どもの置かれた現状を下方修正する必要に迫られている。10年余でさらにきびしい生き方を強いられている子どもの生活の必要を思わざるをえない。 戦後民主主義の転覆さえ生じかねないこのご時世を考えれば、会はまだまだ出発点のラディカルさを失ってはいけない。同志会50周年は戦後60周年でもある。 （浪 速男） |
| 2004.11.4おおさか支部ニュース「たのスポ一番搾り」原稿 もう一歩 地域へ ―04.11号 特集「子どもに向かい合い、ともに考え、ともに生きる」を読む― 「注目の実践」は二本とも技術認識も出てこなければ、授業実践でもない。どちらかといえば生活指導の実践記録だ。教育課程研究を潜ってこのようなテーマが掲げられ、子ども・生活に注目が集まるようになった。10月号・「教育課程試案２」への梅原利夫コメントも、みんな子どもの生活課題を正面に据えた実践に向けられていた。 漆山昌博「教育課程づくりで明日への期待を」は「こんな学力」より「授業という土俵に引っ張り出す必要性を優先」と告白している。授業で逃げればさらなる悲惨が待っている。誰のためでもなく自分のため、生活指導を教科で。それは大事なことだ。大きな視野で見れば科学があるからそれができ、子どもの生活課題に向き合うことがかえって教科性を高める。授業という土俵に上げずして自らの専門性を賭して子どもにどう働きかけるのだ。授業には本気で向かい合う者同士に開かれる世界がある。「人間関係を結ぶことを技術的な課題を通して再構築させる」（塩貝コメント）。そこが全生研でなく同志会実践なのだ。 それにしても４月にペースランニングは意外だった。しかし他者関係から見た教材分析に見通しがあった。３年生の４月という節。残るは１年。みんな違う自分になりたいという願いを持っている。「崩れたのではない」。立ち直ったのはむしろ漆山自身だ。しかし授業の肝心なところで逃げてしまった弱さも分析されている。それもあって、とっておきのフラッグフットを３年後半にぶつける。戦術戦略の授業からチームがゲームプランを持ってつながりはじめた。山場での教科性の発揮で生徒が授業にのめり込む。しかしフィーバーはひとつ深まった新たな葛藤を生じた。これがまた次なる実践に向かわせる。 漆山は締め括りに吹っ切れて、つながり直す、ダンスパフォーマンスを持ってくる。この間に文化祭の体験などもあったのだろう。ストレート勝負の山内実践に学び、サブカルチャーの世界に思い切って飛び込んだ。漆山にとっては単にダンス技能に止まらない新しい教育技術の獲得があったことだろう。「ある程度の経験とテクニックを身につけた中年教師」が、ここに新しい自己を創造した。折り合い、語りかけ、聴き取るの繰り返し。子どもたちとの対話的関係がそれをさせた。 「運動文化との出会いを計画的に準備し、そこにちりばめられている科学や思想を学びとらせ子どもたちを育てる」。それはそんなに一方通行の営みではない。むしろ一筋縄ではない現実に立脚すべきで、カリキュラム論とはどんな子どもを育てようとしたかが一番である。確かに「技能的達成や技術認識は明確に示され」ず、「運動文化の側からの教科内容や教材の選択が不充分」で、「学力内容が曖昧」だ（塩貝）。その分を差し引いても、中学教師が「明日の授業に向け大いに励まされる」実践だった。お釣りは出よう。 教育課程づくりは教師自身の教科専門性の深まりとともにあることを見過ごしてはならない。書かれていないが「手記」はそれへの気づきを語っている。戸惑う漆山が魅力的だ。余り無理をしない教育課程づくりを歩んでほしい。 ３年間を語れば濃密になる。カリキュラム論の論じ方に成果があった。 山野真「子どもっていいなあ」は冒頭の不登校児のことばが至言だ。子どもができることを教師が仕切るために仕切っているのが学校の日常か。「教師がマイクを握らない運動会」は達成目標として今も有効だ。彼らは子ども扱いするから子どもをしている。６年生ともなればそれくらい賢い。そういう賢さが随所に示される。 それにしても「昼寝室」。今どきの子どもは凄いものを要求してくる。それを認める教師の雅量がまたいい。意見表明は願いの実現と結びついて保障される。ガチッと出来上がったシステムと思われているもの、つまり子どもに諦めを教えているもの、それを子どもが動かしたという経験自体が学ぶ価値なのだ。 山野実践のもうひとつ大事な点は、児童会イベントのすべてを「子どもの意志で」父母公開していることだ。「生活活動部と児童会のいわば二者協議会」（森コメント）の向こうに、父母の参加と表明、三者協、父母に開かれた学校評価などが望見される。この実践の真価はここだ。ここからが教育課程づくりの本当のステージなのだ。（浪 速男） |
| 同志会ひょうごNEWS １１月号 たのスポ１０月号を読んで 三宅 学（淡路ブロック） 巻頭言では、｢育ちそびれ｣について書かれています。これまで幼・少年期の生活の中で自然に培われてきた学校体育の前提となるべき諸能力が、放っておいては育たなくなってきていることをそう呼ぶそうです。 私の勤める学校でも、昨年こんなことがありました。休み時間、１年生の女の子が走っていてつまずいて転んだそうなのですが、あごだけすりむいていた、ということがありました。手や膝は何ともありません。そのときは、｢どうしてこんなこけ方をしたんだろう？｣ぐらいにしか思わなかったのですが、その後、同じような怪我をした子が２人もでました。３年生と４年生の子でした。さすがにショックでした。つまずいた時は足を出したり手を出したりするのが当たり前の動作で、中学年ともなると当たり前にできることと思っていたからです。子どもたちは、こける前の動作である歩く・走るといった感覚やバランス感覚がうまく身に付いていないのだなと思いました。 そんなこともあり、実践のひろば・小学校低学年での花田先生の実践は、大変興味深かったです。１時間目の｢学校のいろいろな場所を歩いたり、走ったりしてわかること・感じることを見つける｣では、子どもたちのいきいきと活動している様子が伝わってきます。ともすれば、楽しかったで終わってしまいそうな活動ですが、子どもたちの感想を見ると、しっかりと目的意識を持って取り組んでいること、そのためにきちんと指導されていることがわかります。特にすべり台での感想はよく書けているなあと思いました。普段の何気ない動きでも、体の細かい部分の動きに気づき、自分の言葉で表現できていることは、とても大切なことだと感じました。 ２時間目以降、友だちにわかったことを紹介したり、互いの走りを見合ったりする活動もしています。２年生の子どもたちが、友だちの走りをどう見ていたのか、もう少し知りたいと思いました。 今年度、３・４年生を担任しています。４月から体育の時間には、準備運動として遊具のサーキット（ろく木、シーソー歩き、登り棒、ジャングルジム、ブランコこぎ、うんてい、丸太歩き）をしています。昨年度の怪我事件（？）が気になり、いろいろな感覚づくりができるのでは、と思ったからです。ただ、私自身、それぞれの遊具で子どもたちがどのような感覚を身に付けて欲しいのか、というところがまだ曖昧だなと思います。ちなみに今年度は、まだ（？）あごにばんそうこうの子はいません。 |
| たのスポあいち №３４３ （２００４年１１月１日） １０月号はいかがなモノ？ 今月の担当：後藤 静（たのスポ愛知班） 秋、まっさかりです。この春に息子たちの小学校、中学校入学の記念に植えた庭の『花水木』も赤い実をつけ、葉っぱにもほんのり色がつき始めました。秋の夜長に読書など…とお思いの皆さん。『たのスポ １０月号』はいかがなモノでしょう。 今月の『たのスポ』は｢子どもの発達と重点内容・重点教材｣を特集しています。それぞれの学校で、それぞれの生徒と向き合うとき、いつの時代もそうだと、そうだったと思うのですが、｢これって、一体、何？｣｢はぁ？ここまで出来ない？こんなこともわかっていないなんて。｣と感じる事、多し。そんなときに現実を受け入れ、見据えた内容・教材を工夫できるか。けれど、こんな当たり前の事、わたしたちがしなければいけない当然の事がやれない・やらない・やりたくない…と思っている人もいるのではないでしょうか。 渡辺光雄さんの『側転のコツを探そう！』は、｢落ち着かない｣｢話が聞けない｣｢指示待ち｣最後までやりきれない、感情のまま言葉をぶつけ相手を傷つけることにも平気…などの子どもたちへの側転のグループ学習の実践。渡辺さんは、実践後の感想に『全員の側転の技術を獲得させることはできなかったが、子どもたちが仲間とかかわりながら学んでいく姿は｢みんなで学ぶ！｣に向かっていくものであった』と書いている。また、『今何がしたいか！もっと自信を持って！自分たちの願っていることが形になる。自分とみんな、みんなの中の自分、そして自分自身。子どもたちはしっかりとこのことを見据え、今を生きていくことがとても大切であるように思う』と結んでいる。 愛知の麻生吉雄さんの『１０割の子どもが主役になれる教材づくり』からの一文。｢子どもの心に届くものは何かと、子どもの歩く時間に合わせて歩いている…。｣私もそんな風に歩いていけたらと思った。私が今、向き合っている高校生たち。流行のことばは｢ありえんしぃ～。｣ わははと笑ってすませるだけでなく、こうだからこうなって、だから｢ありえるしぃ～。｣とわからせる私でいたいと思う。 |
| 同志会ひょうごNEWS ２００４年８月号 たのスポ７月号を読んで 前田 裕美（西播ブロック） たの・スポ７月号のテーマは運動会ということでしたが、今までは生徒の立場で参加することの方が多かった運動会を、初めて“企画・運営”する側に立ち、運動会の持つ「意図」を考えることができました。 まず一番感じたことは、運動会は学校行事の中でも大変大きな行事であり、それを有意義なものにするには、体育科だけでなく、全職員が協力しなければならないということです。そして、運動会の持つ「ねらい」を明確にし、計画的に実践していかなければならないということです。また、運動会で行う競技一つ一つに意味があるのだと驚きました。 たの・スポに載っていた実践報告はどれも立派で素晴らしいと感じましたが、その中でも一番心に残ったものは、巻頭言での大宮とも子先生の「晴れたらいいね」という一文出す。 このたった一言に子どもたちの思いの全てが凝縮されているように感じたのは、やはり『子どもが待ち遠しくなるような運動会』ということが一番の原点だと思うからです。もちろんそのためには、子どもが充実感・達成感を得られるような運動会にすることや、自分たちの手づくりの運動会にするということなのですが、生徒主体の運動会を教師側がサポートする体制というのはとても素晴らしいと感じました。私はまだ、なかなか我慢ができずに、すぐに生徒の行動に口出ししてしまいますが、それでは生徒の自主性や主体性が育たないのだと改めて感じました。私が本当にすべきことは、「教える」ことではなく、「環境を整える」ことなのかもしれないと思いました。生徒がワクワクし、参加したくなるような運動会を生徒がつくる。その計画がうまく進行するように環境を整えてやる。こんな運動会を企画し、実践していきたいと感じました。 |
| 同志会ひょうごNEWS ２００４年８月号 たのスポ７月号「よみがえれ運動会」を読んで 本田 旭（神戸大学発達科学部附属養護） 神大附属養護に来て３ヶ月が過ぎました。新しい環境での毎日は驚きの連続ですが、少しずつ子どもたちのようすが見えてきて充実感を感じられるようになりました。今回初めて「たのスポを読んで」を書かせてもらうことになりました。少々緊張気味ではありますが、自分の感想を率直に書かせてもらいました。 運動会といえば、徒競走やリレーで勝つか負けるか、暑い中汗をかきながら教師の怒鳴り声に怯え、痛みに耐えながらやった組立体操、指先から足先まで神経を張りつめた状態でやっていた行進やラジオ体操など、「楽しい」と思うことより「しんどいなぁ」と思うことが多かったです。教師がテーマや種目、演技を決める教師主導の形で運動会が成り立ち、子どもたちが怒鳴られたり、叱られたりしながらやらされている状態で、運動会という学校生活における一大行事を本当に楽しめているのだろうか。私の経験上、怒鳴られ、辛さに耐え抜いてやり遂げた達成感はあるかもしれないが、自分たちで考えて取り組みやり遂げる充実感や達成感、楽しみや喜び（特に充実感、楽しさ）を感じることは少ないのではないかと思います。今回の実践内容を読ませてもらうと、子どもたちを主人公にした運動会づくりをされていること、意見を出し合い一つの種目をつくり上げ、そして運動会を企画、運営していくことを大事にしていることに感動しました。（正直、自分が小、中、高と運動会を経験しましたが、このような経験がないので…） 子どもたちが自分たちで考えて演技をつくることの大切さ。教師が中心になってつくることより、子どもたちが中心になることにより、共に教え合ったり、学び合ったりすることで、勝ち負けだけにこだわるのではなく、「負けたけど楽しかった」という気持ちになれることの素晴らしさ、それこそが子どもたちが成長していることなんだということがわかりました。 今回の実践を読ませてもらって一番心を打たれたのは、制野先生（宮城）の運動会で一人でも多くの子どもの泣けを呼ぶこと。そのために全校３５０名余りの生徒の名前と顔を覚えるということです。簡単ようでとても大変なことだと思います。全ての子どものことを考え、成功させるために全力を注いでいるのを感じられました。私もこれまでに多くの子どもたちと出会いましたが、名前と顔が一致する子は半分もいないでしょう。それだけに先生の子どもに対する思いに脱帽です。自分も見習いたいです。 運動会で得るものはたくさんあると思います。自分たちで考えることの大切さ、友だち関係や教師との信頼感を築きあげること、勝敗による喜びや悔しさ、まだまだいろいろあると思いますが、「運動会は楽しいものなんだ」と子どもたちが思えることが一番大事なんだ。そんな運動会を自分もつくれたらと思いました。 |
| 2004.6.30 大阪支部ニュース「たのスポ一番搾り」 番外編 ヴィゴツキー 第１章 ―「発達の最近接領域の理論」第１章を読む― ３回の学習会で１章を読み終えた。読者はまず手厳しいピアジェ批判に出合う。ピアジェは「子どもが問題の解答に何らかの学習的準備をする可能性を排除」するため、５歳の子どもに「どうして太陽は落ちてこないの」と解きえない質問をする。ヴィゴツキーはこれを「技術上の問題ではなくて原理的問題」と批判する。「子どもの知的発達水準の指標となりうるものは、子どもの自主的活動だけであって、模倣は指標となりえない」との定説に対し、ヴィゴツキーは「人間の子どもの模倣の本質的な特色は、可能性の限界をはるかにこえた一連の行為を模倣しうる点にあり、子どもは集団活動における模倣によって、（指導のもと）自主的に解決できるよりはるかに多くのことができる」と考えた。そして「大人の指導や援助のもとで可能な問題解決の水準と、自主的活動において可能な問題解決の水準との間のくいちがい」に彼の独創「発達の最近接領域」を見出した。この説を知って初めて私たちはピアジェ理論では「発達や成熟の過程において、教授・学習がどのような役割を果たすのかの、あらゆる可能性は失われてしまう」ことを理解し、「学齢時の思考発達の研究者が、この過程は子どもの学校での教授・学習という事実とは無関係であるということを原理的前提としているという事実は驚くべきことだ」とのヴィゴツキーの言葉に驚く。 ところが学校の現実は素振り100回、100マス計算、基礎＝ドリルが幅を利かせ、「どの人間も習慣の生きた複合体」（ジェームズ）、「教科の生活的価値には関係なく、子どもの一般的な知的発達にもっとも価値ある科学を第一番に重視」（ヘルバルト・形式陶冶理論）を大きく越えるものではない。よく読むと私たちの授業はピアジェのはるか以前の日常なのだ。 子どもはすぐに飽きるような簡単なことの繰り返しではなく、たぶん適度な複雑な経験を欲している。重度知的障害児でも適度に複雑でサイズ的に小さくした課題の方が仕事量が増える。子どもたちはきっと詰まらなさすぎて退屈しているのだ。私たちは子どもを子ども扱いしていないだろうか。 言語のことは後の章に詳しい。以下の点に留める。「ことばは初めはコミュニケーションの手段として発生し、その後内言に転化」し、「思考の基本的方法となり、子どもの内的精神機能となる」。「まずはじめ子ども集団のなかに口論が発生し、それと共に自分の考えを論証しようとする欲求が発生し、その後にはじめて子どもが自分の考えの根拠を意識化し、思惟が発生」する。学びははじめから集団と一体だ。 最近接領域説とこれらの見解をつなぎ合わせると、グループ学習や対話の授業では、教師が見通しを立て提示する課題の中に、さらに小さなステップの子ども同士模倣しうる最近接領域が入れ子になり、発達を組織し合う構造が見えてくる。こうして課題は子どもたちの力も借りて、概ね発達の最近接領域内に収まり、適切な教育課題になる。同志会の楽天性や実践性といわれるものの源泉はおそらくここにある。 「教授・学習の本質的特徴は教授・学習が発達の最近接領域を創造するという事実にある」。「正しく組織された教授・学習は、子どもの知的発達を先導し、教授・学習の外では概して不可能であろうような一連の発達過程を生じさせる」。「外的意識や外的技能がどのようにして内的なものになるのか」。「学習過程と発達の内的過程の統一性」の考究に発達の最近接領域説は導いてくれる。教師の・研究者の・支配者の視点ではなく「子どもの発達の視点から見た教科の内容構造の確立」と「学校での教授・学習構造の変容」、「教科のこの内的で地下に潜む発生的な網を明らかにすること」が保健・体育の発 達研究である。 （浪 速男） 土井捷三・神谷栄司訳 三学出版 \2300 次回は７月28日（水）高津ガーデン1:30～ |
| ☆私の目星☆ 羽間 弘美 愛知支部ニュース｢たのスポあいち｣ №３３８ ２００４年６月１日発行 より 感謝感激「水泳指導ハンドブック」 でも、やっていいのかな？ もうすぐプール開き！ 去年のクチャクチャ授業を何とかしたいと思いつつ、何も持ち技のない私にはありがたい特集でした。はじめに中川先生の講座①を読んだので、｢しめしめ今年はこれだぜ！｣と思ったのですが、前の川口先生、黒野先生、後ろのページにある楠橋先生のレポートを見て不安になってきました。ドル平に関して何の研修も受けたことがなく、見よう見まね（いや、見てもいないか…）、読みまねだけで子どもに教えることができるのか？ また、長年真剣に研究されてきたものをその本髄を知らなくて子どもに教え込むのでは、同志会が大切にしている｢わかる｣→｢できる｣とならないのではないか？…どうなんでしょう？ とりあえず｢今年は全員顔つけができるといいな｣という阿呆な目標は消し去り、｢浮きと呼吸法にこだわってやってみよう｣という目標はできましたが、どうなるか心配です。 一番クリアに納得し、おもしろく思って読んだのは｢着衣泳はどのように教えればよいですか？｣に対する牧野先生のお答えでした。私の学校でも着衣泳の授業があります。着衣によって泳ぎにくくなることばかりがクローズアップされ、さらにプールの汚れの問題ばかり職員会議で話されていました。牧野先生の答えを読んで、目からうろこ、特に背泳が水上救助法から生まれたということは大発見と大納得でした。着衣をしていることでの｢浮き、漂い｣の感覚を掴ませる授業をぜひやってみたいと思います。 運動会が終わりました。菅野先生の研究授業にあった｢全員リレー｣が３年生以上は行われましたが、足の遅い子にとっては屈辱のこの競技、｢自分たちのチームの記録にこだわる｣取り組みを、来年は（何年生かわからないけど）したいなと思います。 私は１００マス計算もここに意義があると思い、毎日しつこく行っています。 |
| 『たのスポ』を読んで ｢障害児教育の中から学んだことが健常者の中でも生きる｣ －ベニヤ板走からハードル走（短期大学での実践）－ を読んで ハードル走を今実践するとしたら 教職について早16年がたちました。（時だけが徒にすぎて…） 私が初めて支部の例会で実践報告をしたのがハードル走でした。山の中の小さな学校の８人の５年生それぞれのインターバルに合わせていくつかのコースを作り、ハードルのかわりにゴムひもをつけた棒を立て、｢ハードル間を３歩のリズムで心地よく走る。そのためのひみつを見つけよう。｣というものでした。時数など考えず、ただがむしゃらに指導していたなぁと、読みながら当時を思い出してしまいました。今、街中の学校に勤務していますが、もしここで実践するとしたら…ゴムハードルをつける棒は用意しにくい中、いきなりハードルを置くことにしたら子どもたちは恐怖感を抱くだろうから、ベニヤ板を地面に置くことから始めるこの実践は、参考になるなと思いました。 Ｍ君とかかわって 現在６年生２６人を担任しています。昨年末まで特殊学級在籍のＭ君が、体育と音楽をいっしょに学んでいました。Ｍ君はしゃべることが困難でしたが、こちらが話すことは少しずつ理解していきつつありました。いつもニコニコしていて、子どもたちもごく普通に接していました。その中のある子が作文にこう記していました。｢最後に心に残ったのは、いろんな友だちに会えたことです。その中でも、最も忘れられないのがＭちゃんです。私はＭちゃんに、『笑顔を忘れないで』と教えてもらったような気がします。また、Ｍちゃんとブランコに乗ったことで、ブランコの楽しさを思い出すこともできました。でも、最初は、どう接したらいいのか少し不安でした。でも、いっしょに遊べるようになりました。そんなＭちゃんが転校してしまうことになりました。そてもショックでした。いっしょに卒業したかったのに。だけどＭちゃんのことは忘れません。｣ 子どもたちの学びは決して一方通行ではなく、相互に学んでいるのであることの証明だと感じました。 教基法｢…ひとしく、その能力に応ずる教育を受ける…｣は？ 本文とは関係ありませんが、今、文科省が進めようとしている｢特別支援教育｣構想の問題点を一言。｢軽度の発達障害｣の子どもたちへ｢特別支援教育｣を開始する方向を打ち出しましたが、対象となる１００万人近い子どもを｢既存の人的・物的資源の見直し｣で対応しようとしています。これで、その子に応じた教育ができるのでしょうか… －｢体育山口｣（学校体育研究同志会山口支部）№１８０より－ |
| 2004.6.5大阪支部ニュース「たのスポ一番搾り」 水のアフォーダンスから対話のグループ学習へ ―04.6号 特集「「わかる」ってスゴイ！」を読む― 西口和代「側転の技術ポイントを見つけだす過程で」は、はじめ視点を与えておいて観察させ、次に「大きな川とび側転にするにはどうしたらよいか」のグループ研究に進める。見つけたポイントは公表され（西口が学級通信で仲介）、○脚をピン◎脚を開く●後脚を振り上げるの３つに整理される。子どもたちはあれこれポイントがあるということを知って、考え追求すれば、できるようになっていくのだという合意の中で学習している。引用文からどの子も技を分析的に見ようとする基本スタイルが確立されていることがわかる。４年生の子が技についてこれだけ書けるのは生き生き考えているからだ。西口は自分の役割は「大事なポイントを子ども自身が自分のものにしていく手助け」であり、「教師が「こうするんだよ」と言ってしまうのでなく、子どもに確かめさせるように働きかける」としている。そのことが授業に弾みを与えている。子どもは「自分の力で見つけだした工夫で大きくなったときが一番うれしかった」と書いている。 西口は子どもたちの「わかる」過程を①「与えられた」視点について比較、②課題についてグループでポイントを見つける、③友達の気づきをヒントにやってみる、④具体的な動きの事実から見つけだすと、徐々に教師の手から子ども自身に移し、教師は後景に退くように仕組んでいる。ただ本誌の限りでは②の教師によって組織されたグループ学習がハイライトになっており、③④は散漫に見える。教師がどんなに子ども本位の「認識と習熟の変革過程」を用意しても、系統という不動の内容が教師の手にある限り、子どもは自分たちで気付いたかのようになぞるだけという枠を突破できるのかできないのか。子どもたち同士の技術をめぐる対話・討論がどこまで自生的に組織され活性化されていくのか、このあたりがこれからのグループ学習研究の課題だろう。子どもたちが円満に教師の読み通りに力を発揮して、高い到達を示し、満足しても、もっと子どもがどのようにマット世界を獲得していったかの子どもの側からの読みとりが欲しい。 佐々木盛文「ドル平の授業でわかって、できて、どう変わったか」の５年生の感想は西口実践に較べシンプルだ。それは４クラスの合体という制約のためであり、そんな中佐々木は「通信」まで出している。よくやるなぁという感想と共に、多人数という制約がかえって、佐々木に子どもと技術の関係だけに絞って考える割り切りを促しているように見える。 こんな条件でも教え合いのグループ学習ができるのは、わからせる中身とわからせる手だてがよく洗い出されているからである。ドル平のコツのコツまでスモールステップ化している水プロの系統の精密化には感嘆させられる。中身がよく整理されている分、子ども記述の読みとりも丁寧だ。 その「わかる」で子ども達はどう変わったか。佐々木は「友達の泳ぎを見てさらにわかって、分析的に見ることができ、原因が考えられるようになって、的確なアドバイスができるようになってくる」とし、さらに「分析的に見ることができるということは、「できない」に対して「できる」見通しをもった見方をすることができる」。「「わかる」が大切にされない場合には「できない」ことはすべてだめなことになってしまう」と続ける。この観点は大阪支部において「うまい・へた」観を革命的に変えた「技術の進んでいる子・技術のまだ進んでいない子」（技術史の教材化・ハードルポドテキスト石谷実践の板野泰士君―当時中２―の言葉）から引き継がれる水プログループ学習研究の真骨頂である。「「できる」は現在の到達水準で「わかる」は未来の「できる」だ」（こちらは同じ水プロの澤口が先日のヴィゴツキー「最近接領域の理論」学習会で愛知の堤と交わした会話の一端である）。 佐々木は合体でも「できそうだと思わすことはできた」。（技術について）わかることで「がんばっている度合いがわかると、友達に対する見方も変わってくる」と言い、最後に＜スイミング育ち・泳げる子＞のドル平からの学びと、＜まだ25m泳げない子＞が的確なアドバイスで友達を泳げるようにしている事例を引いて、うまい・へたを超えた共同の学びの見取り図を描いている。 以下は先日のヴィゴツキー／アフォーダンス学習会で議論したことだが、評者はグループ学習の異質共同の学びを、学ぶ子どもたち自身による最近接領域の自己組織化と考えてきた。ここから生み出される子どもたちの珠玉の言葉によって実際は教師も学び直しをしているはずだ。この３者全体の過程を丁寧に記述できるようになれば、系統のグループ学習を体育の対話の授業として編み直す見通しがついてこよう。それは例えばこんなところだ。「ドル平をやったとき、すぐにしずむし、うきあがりにくいし、息がきれそう。むずかしかった」。この感想から佐々木は子どもの躓きを「沈むのは浮きすぎるせい」とすぐに見抜く。こういう矛盾と発展の弁証法的変化を子どもが発見することはとても難しい。しかしこの局面は大切にしたい。この発見の驚きを教えられずに効率へ傾斜するのではなく、佐々木は４クラス合体という現実の制約にあっても緻密にわかる・できるにこだわっている。そして「いかに沈まないように泳いだらよいかが全体の課題になった」ところで、「にゅー」の習熟が用意される。系統的だけれども機が熟してから与えるべきものを与える、そういう抑制に近年の水泳指導の教授学的な深化を見る。この一つの、しかし見過ごせないステップを教師はどうわからそうとし、子どもはどうわかっていったのか。＜子ども←→教師＞双方のアクション・リアクションがもう少し書き込まれるべきだったように思う。 最近の水プロ教科内容研究は教師の説明がシンプル化し、「わかる」を実験を通して体感させるなど、子どもと水との対話、あるいは子どもと泳ぐ身体との対話に近づき、全体としてアフォーダンス的アプローチに向かっているように見える。おそらくは長年の中川の低学年指導への傾注が背景にあるのだろう。いつも感心させられるのが水プロの命名だ。「がっくり浮き」や「にゅー」などイメージの言語化が秀逸であり、これは言葉のアフォーダンスといえる。 ＊アフォーダンス＝行為によって現れる環境の持つ意味 躓きからの発見、そこにある飛躍にスモールステップの橋や階段がいっぱい付けられ、オフロードのおもしろさを整備の行き届いた遊歩道にしてしまうのではなく、教師の観察・発見やスモールステップづくりのおもしろさ、開拓者の喜びや醍醐味を子どもと共に追究できる実践。５月号（中川孝子「水慣れ入門期における水泳指導の内容と方法」など）と、この佐々木実践はそんな体育の対話のグループ学習のイメージを喚起してくれた。 赤ずきんちゃんゲーム、ねこちゃん体操、「みんどこ？」実践、ヴィゴツキー、アフォーダンス、ここのところの支部例会、学習会、『たのスポ』からの発信はみなつながっている。教師の「教え」との対応ではなく、子どもたちの対象への働きかけから発せられる「わかる（できる）」言語・非言語メッセージの読み取りに意識を集中したい。 制野俊弘「わかる中身とわかり方をめぐる一考察」は同志会認識論への一石として努力を是とするが、「わかり方を教材内容として位置づける」「わかり方をも教科内容の一つの重要な要素として位置づける」とは一体何を意味し、それは可能なのか、充分言語化できていない。わかる・できるのメタ理論は今のところ観念論的だ。制野の意識は子ども自身がものごとをわかっていくという意味での「わかり方」研究ではなく「わからせ方」にある。私たちもまだ未分化の中にいる。 ＊〆切日の都合で５月号大阪編集班『水泳ハンドブック』は書き下ろしができませんでした。不十分ながら5･6月号合併評とします。 （浪 速男） |
| ☆私の目星☆ 羽間 弘美 愛知支部ニュース｢たのスポあいち｣ №３３６ ２００４年４月１日発行 より 「実践の広場」バレーボール・水泳実践 バレーボール部の顧問となり、毎日の生活をこなすことだけに一生懸命になっていた1年。新井先生のバレーボールの実践は「アタックの喜びをみんなのものに」と銘打ってあり、余裕を感じさせられました。アタッカー、セッター、レシーバーと役割をほとんど固定して取り組んでいる部活と授業は違うと感じました。しかし、これはぜひやってみたいなと思ったのは「ゲームストップ・アンド・インタビュー」です。プレー中にメンバーがどんなことを考えているかを知り合い、「今」ではなきく、「次」どう動くか考えプレーすることの重要性に気づくための手立てです。バレーボールにおいても、他のスポーツや勉強においても、「先を見通す力」は必要です。「次にこうしたら、できるかもしれない。」という期待が持てることは「できる」ことの始まりのように思いました。 今年一年で悔いの残った体育は水泳。マニラでは１年を通して１週間に３時間の水泳の授業をしていました。それなりにコツを掴み「クラス全員すいすいさぁ」と意気込んで取り組んだものの…。夏休み後、水が怖く顔もつけられなかった子がニコニコしながら「私、スイミングに１週間通ったら泳げるようになったの。」と報告してくれました。しかもその様子を書いた生活作文は、泳げるようになっていく過程が書かれた素晴らしいもので、賞に入りました。「ああ、この中に出てくる『先生』は私じゃないんだ。」とがっくり。浮きと息つぎの頭の位置、肩の位置に重点をおいたと平田先生の実践理論は、私がマニラで掴んだ泳ぎのコツと同じものだと図々しく思います。しかし、やり方が違いました。平浮きから丁寧に始め、それを子ども同士で教え合い確認し合い、学び合っている。私が一人で悪戦苦闘して３３人の泳ぎを何とかどうにかしてやろうとするやり方は「（無理やり）できさせる」だったと真摯に反省しました。「できる」子どもが「こうやればできるんだ」という実感をもってこそ、喜びを伴った「できる」に変わるんだと思いました。 ４月から、子どものそういう「できる」喜びをともに分かち合いたいな～、なんて、これ書いているうちに、前向きになりました。 |
| たのスポ一番搾り 東京への返信５（最終回） 重いことをオモシロク
―04.4号「逆流に立ち向かう学校・体育実践―震源地からの発信」を読む― 小・中・高を問わず、この時代、教師は教室で完結する授業をしていてはいけない。子ども・生徒・青年と対話し、親と繋がり、親をつなぐ、親の力も借りて、学校・地域の教育力そのものを肥え太らせ、市民的共同をつくっていく、明確にそのような意志を持って、教科の授業といえども総合性のある実践を、一歩一歩足許から構築していくことだ。もの言わぬ教師になってはいけない。発信の自由は使わなければならない。同時にものを聴ける教師にならなければならない。それは子ども・青年・父母との共同を進める上でもっと重要なことだ。発信よりも聴く力を高めることは、教師の対話能力が問われているからだ。市民として、父母と対話しながら教育をつくっていく、父母との共同による学校づくりは、まず父母と（高校生と）教育実践が創れるという教師自身のヴァージョンアップなしには空念仏に終わる。そこに学校づくりや地域づくり（広く共同の教育）の主体の未成熟という課題がある。学校づくりとはむしろ教師主導で行いうるものではないと考えた方がよい。そういうことに教師は自覚的であるべきだ。＜子ども－教師＞双方のために、＜父母－教師＞双方のために、学校づくりは＜子どもとの対話を通じた父母との共同による教育実践づくり＞によってリンクされることが最も一致しやすく効果的だと思われる。
教師は歴史的に学校システムを通じての地域支配の役割をも負わされてきた。そのような立場から離れられない教師の必要や、教師個々の生き残りのために、子ども・青年・父母が本気で教師を支えてくれることはない。父母と共同するということは、父母の評価に自らを問うということでもある。評者は外部評価は必要であると考えている。父母も構造改革・規制緩和のリストラ社会のなかで、分断され、孤立化され、生きていくのに必死であること、このような淘汰圧が子どもを追い詰め、家族を苦しめていること、そういうことを忘れてはならない。そうした人々に試され支持される学校でなければ、公立学校を守る根拠は失われる。依拠すべきは、正に上のような困難を共有しているという、私達が共にある条件なのだ。もっとそこに向かっての建設的な発信と対話・連帯・共同を進めることが、市場化攻撃から公教育を救済する唯一の道である。 子どもとの対話を通して父母と対話し、親と教師、親と親をつないでいく性教育実践は、やってみればオモシロイ。子ども・父母との対話による実践づくりは、子ども・教師・親が共にエンパワーされ、みんな自己肯定感が高まっていく。この実例については４月24日の大阪支部例会を待って、３人の実践者から直接発信していただけるものと思う。夏の全国大会に向けて、『たのスポ』５月号でも「みんなはどこから？リレー実践」の一端が「私たちの授業研究」のコラムで発信される。性教育で「荒れ」と向き合い、親の教育参加で地域をつくっていくことにも方途はある。 授業実践が地域をも動かす見通しが開けてくれば、教師はかえって授業に集中できるようになる。対話の広がりが教材理解・子ども理解を深め、子どもの集中度が高まり授業理解が深まる。多忙の中でも授業の質を上げることができる。授業実践と学校づくり・地域づくりが別な抽斗に入っている間は上からの「改革」でも下からの運動でも、教師は多能工化せざるをえず、多忙、徒労が教師を消耗させる。それよりは本来の土俵である教育実践に総合性を持たせ、親の授業参加を組織して、教育力それ自体を高めていく方が、教師は仕事を通じて地域に働きかけることができる。教育実践の中に地域を入れていく方が市場化論「教育改革」への対抗の王道であり、対抗の共同を組織する早道と考える。現下の情勢展開は「早さ」をも問われている。 自由化市場化論と画一的統制という相矛盾する政策手法を取る限り、地域分散型の教育支配は早晩繕い切れぬほころびをさらけることだろう。リストラ時代がいつまでも続くわけでもない。見通しを持って着実に実践を開発し・拡げていくことで出口は見えてくる。 体育・健康教育、小学校・中学校・高校を問わず、父母との対話と共同でつくる総合的創造的実践に打って出る時だ。この発信が、リスタートの誓いになるよう東京にエールを送りたい。次なる「逆流に立ち向かう体育・健康教育総合学習実践」が特集で組まれることを待望する。 （浪 速男） ＊「憲法・教基法―教育課程―評価…攻めの評価論を」（榊原義夫『たのスポ』03.12号問題提起）が学校選択制、教員評価、性教育攻撃など、多くの点で重なる問題意識から政策動向に分析を加えている。本号と併読されることで12月号はよりよく理解されることだろう。
 東京への返信４ 子ども性ー市民性をつなぐ教育実践 ―04.4号「逆流に立ち向かう学校・体育実践―震源地からの発信」を読む― いま必要なのは、ひるむ教師にエンパワーする教育実践と対抗の論理の創造だ。「逆流」を記述し、表明した東京自身を含め、「震源地からの発信」を受信した各地の会員全体がそれを自覚し、地域の実情と未来を見定め、実践や運動に着手や備えを始める。それなくして、震源地からの生々しい発信の意味はない。露骨さの程度の差こそあれ、ここに記された事実が現政権の選択した「教育改革」であり、全国的に深まっている事象であり、市場化という、あたかも自然淘汰のような顔をして行われる社会淘汰なのである。市場（父母）の選択という淘汰圧をかけ、個別分断的に生き残り競争を仕掛けてくるという、新たな手法の攻撃に、職場ごとの創造的な闘いがネット化されて展開されなければならない。現実にはまだほとんどの区でほとんどの小中学校が（もちろん全国の小中学校が）、今まで通りどっこい生きている。この「発信」がそこで生命力を膨らませるかどうかが問われている。地域の実態も違う。父母が全部市場な訳でもない。
どうせマクロとミクロの闘いなら、ミクロさを生かす戦略を採る必要がある。その点、「高校生のパワーは希望の光」（梁田陽子ら実践の広場）は参考になる。高校生ともなれば、子どもも教育実践をつくる主体になっている。杉並高校の生徒会「君が代討論会」では管理されてきた生徒の方が市民に育っていることが印象深い。育った若い市民は教師にもきちんと眼を向けている。また自分たちの未来のためにイラクへの取り組みを起こす「高校生平和のつどい」や「高校生戦争協力拒否宣言」の取り組みが記される。そしてまた自分たちの居場所・育ちの場を一方的に奪われる理不尽さに、統廃合反対の地域運動に取り組む水元高校生達。葛飾区議会が全会一致で都教委に意見書を提出していることは、これからも彼らが育っていく大きな力となるだろう。いずれも「経済効率優先の教育行政をきちんと批判し、生きる力を学べる教育行政」（久松暉昌「生徒会の学校づくりと統廃合反対の取り組み」）をつくる力を、高校生に育て、地域に拡げている。こういう力を多面的、多彩に引き出すことが高校という発達段階の教育実践といえるが、評者には高校生自身がいま求められる教育実践に姿を与えているように見える。なぜ私たちが彼らにエンパワーされるのか。世間のしがらみがない分、高校生はストレートに表現してくれる。高校生の曇りのない眼光は誰が子育てを守り、誰が子育てを踏み台にしているのかをあぶり出さずにはおかない。私たちが「高校生に続け」と呼びかけられているのだ。市民高校生（に代表される子ども・青年の市民性）との対話能力に磨きをかけ、彼らに兆している力を引き出してくる力をつけることが、このような時代の教師の発達課題と言ってさえよいだろう（それは実はそのような実践を通しての働きかけからしか培われないものだが）。 今後の教育行政は企業家などを入れた小型教育委員会のような学校評議会（都立高校では「学校運営協議会」）を梃子に、いっそう地域分散型が進む方向にある。政策の青写真通りに進めば、公立学校は企業原理の地域支配を効率よく徹底する装置に変質していくことになる。ここで最も当事者たるべき当該校（地域）の子ども・ＰＴＡ・教職員が店晒しであることに、もっと眼を向けておかなければならない。形骸化していることの多いＰＴＡが文字通りＰ－Ｔ－Ａを結ぶ唯一公式の機関であることをもっともっと大切にし、子どもを通じて父母との共同の教育を現実性のあるものに鍛え上げていくことが極めて大切な課題だ。そのとき高校に限らず子どもを主体に押し出した教育実践の方が父母との共同が円滑に進むことは間違いないだろう。「長野教研で全国から報告された生徒・保護者・教職員三者協議会」（簗田）などをその先に見通しながら、教育実践への実質的な父母参加をどうつくりだしていくのか、ここが私達の日々の体育・健康教育実践に問われているのだ。教育実践の社会的な力を示している点で高校実践は大いに参考になるはずだ。 （浪 速男） 東京への返信３ もう一ひねりいるのでは ―04.4号「逆流に立ち向かう学校・体育実践―震源地からの発信」を読む― しかし事はそう一筋縄ではない。現場教師はもう一ひねりここで知恵を絞らなければならない。
「都教委は、今やっているので精一杯だということが分かっていない」（吉澤・山田「先端を行く?品川区の「教育改革」の現状」）のではなく、政策はそれを見切って行われている。規制緩和政策は一つ一つではなく、いろんなことを一気にやってしまう。対抗勢力の当事者能力を奪うため、「今やっているので精一杯」という対応能力を超えた事態を作り出し、組合つぶしも織り込み済みで、これははじめから戦略的に行われているのである（内橋克人他「規制緩和―何をもたらすか」1998岩波ブックレット）。 「都教委の教育改革は、高校教育の徹底した複線化から」始まった。冷徹な見方をすれば、今ある事態は90年代高校新多様化の手法をそのまま義務制に降ろしてきたものであり、これまで学校が選択されるという経験を持たない義務制では、より大きな動揺が生じることは10年前から予見されたことだ。しかし現場は学校単位の特色化生き残りで「今やっているので精一杯」に寸断され、さらには進路をめぐってある種対立関係にある義務制∥高校∥大学に分断されて、教育分野の職域の一体的な闘いが組織できていない。 向こうは市場化論でマクロから攻めてくる。こちらはミクロからの視点や声、力をつなげていない。そこからどう戦略を立てるかが問われているのだ。 特集の最後の報告に閉校する学校の運動会からの教訓が記される。「子どもたちの学習や地域の行事などを通して、地域のことを学んだり、地域の方々と交流を持つことが大切だということを改めて感じると同時に、もっと早くからこうした地域との交流、結び付きを強めていたら、この度の統廃合問題もみんなで深く考え、論議してもっともっとよい方向で進めることができたのではないか」（竹内泰彦「同じ閉校ならおどらにゃ、そん、ソン！―さびしいけれど、明るく、さわやかに―」）。それが出発点だ。筆者が結んでいるように、「リストラ統廃合や学区自由化などの攻撃に対して闘っていくためには、本当の意味で保護者と地域と日常的に手を結んでいくことが重要だ」。ここで「痛感」されたことや「再確認」されたことを、どう現実のものにするかがいまから問われていくのである。 品川からの報告は「大人社会のニーズや声だけを聞いて教育改革に踏み切るのではなく、子どもの声を時間をかけて聞き、子どもに寄り添った教育改革の方向性、ボトムアップの教育改革を考えていけないものか」との嘆息で結ばれる。だが「大人社会のニーズや声」に父母は入っているのかはもう一度考えられなければならない。いくら市場化が最も洗練された東京での話とはいえ、父母は本質的に「子どもの声を聞き、子どもに寄り添った教育改革」を支持するのではないのだろうか。父母の参加抜きには「ボトムアップの教育改革」は幻想である。早く割り切って父母との共同に踏み出すことが先決である。いま求められているのはここにリンクし発展する父母参加の教育実践である。 父母＝市場ではない。そこを誤ってはいけない。市場化攻撃に対抗しうるオールマイティーな力こそが、父母との共同なのであり、そのことはもう論理的に明らかなことだ＊。要はそういう姿勢を教師自身が持っているのかいないのか、問われているのはここだ。いくら父母との共同しかないことがわかっていても、それがスローガンに終わるのであれば、市場化論という大衆がそれなりに馴染んだ手法でこれ以上攻め込まれては劣勢は挽回できない。市場化に対しては、日本の多くの大人も対抗勢力の一員として共同し、行動する経験は初めてのことだ。その先頭に立つべき大人こそ、学齢期の子どもを持つ父母なのだ。「物を作っているわけではありません。一人一人がかけがえのない生身の子どもを育てているのです」。教育の仕事は原理が違うのだということを肚を据えて訴えると共に、これに見合う実践の事実、子どもが育っていくという事実を世に問う（父母市民の外部評価に曝す）こと抜きに説得力はない。もともと石原都政・教育行政には、選挙で選ばれたファッショという基本的なところでの逆立ちがある。これを元に戻すには草の根都民対話で世論づくりするしかないだろう。ここでの対話とは教育実践で問いを投げかけることである。 （浪 速男）
東京から発信に応える１
性教育弾圧をめぐって 「知覚は終わらない―アフォーダンスへの招待」を読む（佐々木正人著、2000.10 青土社
\2400） 「うまくせんでどうするの」の次―04.3号
特集「「できる」ことの意味を問い直す」を読む― 教師の最近接領域を広げる―04.2号
特集「障害児体育からの発信」を読む― おおさか同志会ニュース №３２３（２００３年１２月） №３２４（２００４年１月）より  「跳び箱物語―再考」再考―04.1号 特集「とび箱物語―再考」を読む― 井上憲雄「跳び箱の授業で学級づくりを」は、03.3号の江島実践と同種同質の問題意識に彩られた実践である。井上は「達成感」を目標にヘッドスプリング跳び～転回跳びを手段的に用いたことに「心配」と「断り」を記しているが、評者はいま実践が子ども論（「荒れ」問題）を避けて通れない事実の方が重要と考える。そしてここで達成の手だてが確立されている意味は大きい。競争社会を予感しつつも日常に倦む６年生に、転回跳びは教師の手を借りなければならない適度な困難さがあり、彼女達は俄然目覚め始める。 井上の手際よい課題提示と鋭い観察眼もさることながら、この実践の特筆すべきは４コマ静止画像である。動画ではなくこれを切断してみせることで、子どもたちには連続が見えた。引用された子どもの一文から、どれほど一気に分析が深まったかが読み取れる。しかし機器の導入でこれほど劇的に技能と認識が高まるなら、侃々諤々の観察交流や集団思考など、生もののグループ学習の、みんながみんなで高まっていく時間は省略される。実践の成果は新たな問題を提起している。 結論を急ぐ。評者はこれを是とする。まずもって子どもが興奮し、夢中になり、達成したことが素晴らしい。パソコンや各種機器の発達で方法はどんどん進化すればよい。問われるべきは実践の動機だ。冒頭の子どもたちの実態に続く「プロジェクトＸ」風の熱い記述に教師の想いが伝わってくる。４コマ静止画プリントの手法なら40人学級でも使える。開発された手法を子どものものにして、グループ学習も変わればよい。高い達成の後、研究発表会などの座学はいかようにも発展可能だ。良質の習熟と良質の認識は熱い対話の起爆剤となろう。一旦教室での集中の後、いっそうの教え合い高め合う習熟はできる。 同じ６年生に同じヘッドスプリング系で「文化的認識」の実践がなされている。児玉望「『跳び箱・スポーツ・かっこよさを競う』の実践から学んだこと」は「スポーツの文化的認識とは、どのようにすれば学ばせることができるのかを探る、一つの試み」だ。児玉らは「跳び箱の簡単な歴史を教え」、グループごとに作ったルールで競技会を行うが、「何を評価するかはクラスで話し合って、いっしょのもの」と制限的で、結果は＜難易度・安定性・美しさ＞と誘導的だ。跳び箱史学習やルールの調べ学習は何が学ばれたか「割愛」され、「今回の競技会、授業についてのアンケート、感想を書いてもらい、それをもとにお互いの意見を交流した」とあるが、子どもの声が一切載っていない。文化的認識とは何であったか実践記録が答えていない。文化認識は実技の授業には障害物だったようだ。実践が頭でっかちで虻蜂取らずになった（らしい）のは、ひとつには習熟の過少と機会の寸断によって、跳び箱運動自体の技能も認識も高まっていないのが原因だが、根本はこの研究課題が眼前の子どもたちの生活課題とどう切り結ぶのかが明らかにされていないところにある。 酷な言い方になったが、実はこの特集全体が同じ構造なのだ。特集は児玉報告を除けば現場からの実技論＋研究者からの歴史論で成っており、文化的認識≒跳び箱史がどう主体的に教材解釈され、どう子どもに学力化されたのか、山本秀人「『とび箱物語』の頃」も答えていない。「跳び箱物語」特集は「跳び箱＋物語」特集の読後感になった。文化内容論時代の実践的実験はそろそろ総括的評価が待たれる。 いくつか附言しておきたい。冒頭の対談でなく併記方式を採った堤吉郎・和田範雄「質問に答えて」は、両氏の子ども観・授業観の滲み出た優れた教材論であり、思いの共通性と着眼の違いが際だつおもしろい誌面づくりだった。 吉田文久「とび箱の歴史」を興味深く読んだ。評者にはギムナスティーク→跳び箱、ツルネン→跳馬との出自の違いより、「1956年のロイター式の踏切板の使用以降、回転系の跳び方が主流となり」跳び箱が非日常性を獲得したことの方が大きい問題に見える。ならば「形態変化の見られないとび箱には、技の発展は望めない」との結論より、（跳馬ではなく）「とび箱」にロイター板が使われ始めた事情に光を当てるべきではないか。 丸山真司「学習指導要領に見られる跳び箱教材（観）の変遷」は、1913学校體体操教授要目から89指導要領までをコンパクトに通観する好論。但し最後の89要領は規制緩和政策「生涯体育」論という重要な変化に言及がない。丸山によればここで「跳び箱は高さが内容だった」とする高さ規定がなくなり、「いろんな跳び方を身につける」との解説が登場する。めあて学習・新学力観批判の一方で、新自由主義の副産物として、拘束性が緩み、高度化を容認・合法化した89改訂を、跳び箱のスポーツ化に逆用するしたたかさが要ったのではないか（要領は今や「最低基準」とさえ公言されている）。やや歯切れの悪い結論は要領のさらなる背景分析を要請している。 なお「校了期間が短かった」せいと思われるが、各論考に誤記誤植がかなり目立った。通常ページの写真や図解はよかった。 （浪 速男） |
| ☆私の目星☆ 羽間 弘美 愛知支部ニュース｢たのスポあいち｣ №３３３ ２００４年１月１日発行 より ｢私たちの考える｢評価基準｣ 評価基準から学んだこと 中本 雄一｣ 中本先生の器械運動についての評価基準はとてもシンプルなものだと思いました。シンプルながらも１年生から６年生までの系統をしっかりととらえているもので、なるほどなあと感じました。一方、舩冨先生のサッカーの評価基準はゲームの様相を予想することから始まるとても細かいものでした。特に｢技術の獲得｣の欄は細かく、子どもたちを見る視点がはっきりしています。これくらいどの観点も細かく評価基準を設けておけば、どの子にもその一面が見られると思います。細かい基準を設けるならば、項目をたくさんにしなければならないんですね。私も前任校で分からないだらけで評価基準作りをしました。しかも担当したこともない学年のものも作ることになって、……今考えると恥ずかしい限りです。 中本先生の文中「『関心・意欲・態度』という教師の授業づくりの力量に大きく左右される事柄を子どもの評価として取り上げていることに問題がある」という言葉は本当に納得です。忘れ物の多い子は基本的な生活態度が確立されていなかったり、家庭の環境だったりと違うところに問題があるのになあと思いながら、学年で申し合わせた基準の中に必ず入り込んでいます。また、基準はあくまで到達目標であって、「過程までは伝えられない」という問題点は、絶対評価と言われる中、それがしっかりと達成できなくなる難しい点だと思います。 今回私がつけた通知表には、A評価が増えました。これは色々なことに振り回されて納得いく実践がほとんどできなかった１学期とは違い、２学期は少し落ち着いて授業実践ができるようになった私の評価であると、１学期の私の評価のあり方に反省しています。巻頭言での岨先生のような「ワクワクしながらの評価」が３学期はしたいものです。 |
| ほんとうに｢教材12ヶ月・陸上競技編｣（その３） 宮城支部機関紙｢一ノ蔵｣№１８７ ２００３．１２．２４．より  |
| 機関紙クローズアップ 鹿児島支部ニュース｢たけのこ｣ 第168号 ２００３．１２．２１ から  |
| 啓蒙主義の葛藤 －03.10 特集「私にとっての重点教材・重点内容」を読む－ 「私のこだわり」なら主観的に書いた方がよい。みんな「重点」を書くのに総論書いてどうするの…、と思いながら読んでいたら、山内基広「ねこちゃん体操やってみよう！」の終わりの辺からそれらしくなってきた。山内基の主張は「うまくする」本位ですっきりしている。「器械運動に最も大切な共通感覚は「あふり」動作による重心移動感覚」との説も長年の「うまくする」こだわりの精髄を感じさせる。「できる・できないがはっきりしているからこそ、器械運動は重要な教材だ。できる・できないがはっきりしているということは、成果が目に見える、豊かになっていく自分がわかるということ」（和田範雄の言「対談：私にとっての器械運動」）。山内基を夢中にさせるのもここだろう。「できることを追求することはそんなに悪いことでないし」と遠慮がちだが、子どもが夢中になって食いついて、どんどん何事かを達成していく生き生きした姿は教師のやり甲斐感に最も訴える。子どもが喜んで取り組み、あふりの「ねこちゃん体操」でどんな技もできてしまうのであれば結構なことだ。 その点中学校ともなると一筋縄ではいかない（澤豊治「私が授業で集団にこだわり続けるわけ」）。高校よりもっと純粋な時に、もっと過酷な競争に晒され、子どもたちが学びから疎外されている。「一番ホッとするのはベッドに入ったとき」という子どもの現実を無視した「仲間づくり」の押しつけに澤は自分の胡散臭さを見せつけられる。一方で彼らが歌うカラオケの「クサイ歌詞」に託された「自分を精一杯表現したい、仲間と掛け値なしの付き合いがしたい」という願いを読み取りながら、澤は「それ自体が子ども自らの今を考え、今を励ますものになっている」授業をめざす。まず試みているのは「安心して自分が出せる授業」だ。できないことを責めない、その上で誰でもできさせ、その上で出来不出来に縛られない、グループ学習も系統も生かすが形式に縛られない。あくまでも目の前の子どもと自分を信じて、子どもの思いに寄り添いながら「科学的なものの見方考え方と集団性の必要とそのあり方が実感できるような授業」を求める澤。壁にぶつかり、試行錯誤も失敗し、そういう中で試されてきたこだわりは本物だ。 山内明治「私のダンス授業」は真っ直ぐだ。子どものことをもっと知りたい。いい関係をつくりたい。山内明を動かしているのは若い（多分？）教師としての情熱だ。ダンスは女子高生にとって解放であり表現であり、彼女たちを魅了してやまない最大級の文化だ。そのダンスが「これだけ閉鎖された状態に置かれている教材は他教科でも見つけられない」のは、体育教師の文化観・子ども観・ジェンダー観の貧困を示している。同僚にも恵まれ山内明は「男性でも女子のダンスの指導が可能であることを」「自分に対する挑戦」として実践する。夏休み後半を賭けた努力は、案ずるより産むが安し、子どもたちと最初に踊った授業での理屈抜きの一体感で報われる。「絶対叱らない」。エアロビ・インストラクターよろしく「にこにこさわやかに指導」の約束が単元通して果たされたことで、子どもたちは授業ではなく「ダンス」そのものを楽しめた。それがあって子ども任せのグループ学習が期待を超える成果を上げた。「叱らない授業」。子どもたちの評価を通して、山内明は子どもを尊重するとはどういうことか極めて具体的に学んでいる。前例がないこと以上に山内明は系統や技術学習のあれこれから自由で、子どもたちが喜ぶものを素直に追究している。これを「汗かき体育」「風呂上がり体育」と揶揄することからは何も生まれてこないだろう。 系統やグループ学習、民主・科学、同志会として譲れないものは確かにある。しかしそれは形式や教条ではない。サークル実践も子どもたちの抵抗に遭う時代、苦しんでいるのは教師ではなく子どもの方だということに思いを致して、啓蒙主義からいかにして脱出するか。こだわり、葛藤の各論者共通のテーマはこれだったのではないか。 （浪 速男） （おおさか同志会ニュース ２００３．１０． №３２１から －たのスポ一番搾り－ ） |
| ｢たのスポ｣を読んで ｢たのスポ｣を読むにあたって 和歌山大学 石田 智巳 体育グループ第１号より 私の手元に｢“体育グループ”で一層の深まりを｣というタイトルの文章があり、そこには次のような記述がある。 “体育グループ”を活用しよう。そして同志会の目的を達成していこう。“体育グループ”は普通の体育雑誌ではない。同志会員の話し合い、研究し、討論するためのものである。従って、“体育グループ”は会員が体育に関する問題で話し合いたいこと、研究し合いたいこと、実践したことなどを発表することに活用することが第一の任務である。それは、特定の人の会誌ではない。同志会員のものである。更に欲ばるならば、“体育グループ”は成立の目的からして出来るだけ現場の問題を、実践したものをそれらにもとづいた意見や研究を発表しようではないか。その発表されたものに対しては、唯読んで終わりとするのではなく、お互いに現場に活かす工夫をし、そのためにキタンのない批判、意見を述べ合いたいものである。 “体育グループ”とは、現在の同志会の会誌である｢たのしい体育・スポーツ｣の前身｢運動文化｣のまた前身である。このタイトルは、１９５６年に創刊された“体育グループ”第１号の最初の文章（おそらく）である。そして、書き手は会の創設者、 丹下保夫氏である。ここでの氏のメッセージは、当初から５０年近くたつ現在にも通じるところがあることは間違いない。 たのスポを読む かつて広島支部は｢斬りがいのある実践報告を求めて｣という少々挑戦的な文章を載せていた（中瀬古氏、№４４）。この意味は、斬り刻まれる実践報告ほど、読み手を引きつける、内容が濃い、わかりやすい報告だということである。 このときに、斬り刻まれていたのが、宮城の制野氏の実践であった。奇しくも９月号には、制野氏の実践が載せられている。これも面白い実践である。授業から行事へと発展する総合型の学習であった。教師自身の教材研究と洞察力があればこその｢イケテル｣授業なのだろう。後期の私の実践に使えそうだ（といっても理論の授業だが）。 今回中学校における取り組みが３つ紹介されていたが、それぞれにスポーツのもつ人を感動させる力や夢中にさせる力、そして成長させる力が感じられた。もちろん、子どもが変わることを信じて子どもと寄り添いつきあう教師の努力があってこそのことであるが。 さて、支部では、たのスポの年度の変わる１０月から読もうという計画を立てている。実は、紀北で今年集まって読んだこともあったが、一回きりのことであった。問題意識を持って切り刻み、｢お互いに現場に活かす工夫をし、そのためにキタンのない批判、意見を述べ合い｣ましょう。 （わかやま同志会ニュース ２００３．９．から） |
| ８月号（特集「１００人村」の体育・スポーツ）を読んで 「二つの眼で」読む 岨 和正（志筑小学校） 二つの眼で読み感心させられました。 一つは編集者の眼です。山内老師の中国訪問記の写真に始まり、巻頭言の丹羽先生の「ヒマラヤのバレーボール」、海外体育事情編の平岡先生「エクアドルの子どもたちと学校体育」、森田先生「バルセロナ日本人学校の子どもたち」、川口先生訳「中国の学校体育の現状」等、バラエティに富んだ執筆者と内容をよく準備され、世界の眼という視点から編集されていることに感心しました。特に写真がたくさん使用されているため、子どもたちや地域の様子がよく伝わってくるのがよかった。ただ、編集後記は個人個人が書くのもいいのかもしれませんが、字数を減らして「編集の意図をもう少しわかりやすく表現したほうがいいのかな」とも思いました。 二つ目は読者の眼からです。あらためて「所変われば品変わるなあ」と感じました。ややもすると日本の中だけを見つめがちな私です。この報告を読んで、体育も国の政治、経済、民族性、民俗性、教育、風俗、習慣等と深く関わっていることを再認識しました。毎年、自前で支援物資を持ってヒマラヤへ出かけられている丹羽先生。来年も「バレーボール」を持って訪れられる予定だそうです。すごいなぁと思います。エクアドルの体育の教師として頑張っておられる平岡先生。全学年、一週間に１回、１時間３０分の授業をもたれているそうです。それも、今まではサッカーだけだったようです。これをどう変えていかれるのか。次の報告が楽しみです。日本とは異なった環境の中（生活の送り方）で育っているバルセロナの日本の子どもたちのようすを紹介してくださった森田先生。さらに民舞や運動会の詳細な報告が楽しみです。これらの海外で奮闘されている先生の存在を知ったというだけでも、この報告を読んでよかったと思います。まずは、「知る」ところからスタートですから…。 この他の国と日本の国の体育事情の比較から日本の体育をみると「なにが読み取れるか」が、今後のわたしたちの課題なのでしょうね。 （同志会ひょうごNEWS ２００３．９） |
| グローバリズムとアジアの行方 －０８．８特集「「１００人村」の体育・スポーツ」を読む－ ネパールやエクアドルの記事を読んで鮮やかに蘇ってきた工業高校勤務頃の記憶。臨海の下見出張の時のことだ。リアス式海岸の岬の鼻を曲がったところで流れてきたピアノの音と新緑に包まれた木造校舎。貧しかった半世紀前、文化国家新日本の建設をめざした努力によって、日本ではどんな過疎地にも小学校があって、ピアノの音が…。戦後教育の平等主義の徹底がいかに国民文化の底上げに力あったか。かすかに残る時代の記憶と重なって、言いしれぬ直観に撃たれた。 祁社生「中国の学校体育の現状」と宗倉啓「ドイツにおける校種を越えた学校体育の目的」を読むと、自ずと東アジアと西欧の歴史や文化の違いに突当たる。 アジアの大国のキャッチアップ型教育は、いわゆる自由主義社会とはやはり異なる。「素質教育」はさしずめ高度成長期の我が国のハイタレント・マンパワー政策といったところか。市場化に突き進みながらも（だからこそというべきか）、いかにも先に改革開放路線ありきの人づくりに国策臭が強い。熱く語られる体育政策は愛国・集団・協力の資質、「知力開発の手段」であり、運動文化論とひどく趣が異なる。しかしこの体育手段論は「日本の学校体育の少なくない内容や方法が実施され」「本当に良い勉強・参考になった」（祁）。ASEAN諸国が文明開化以来の日本の教育政策を範としている（セン「貧困の克服」）ことは間違いなさそうだ。しかし急激な高度成長が国内の格差を極大化させ、社会主義の国で教育の不平等が広がっている。豊かな都市部では文革期と異なる「贅沢は素敵だ」の市場開放時代の世代が育っているようだ。近年の新自由主義の流れから見て、体育・スポーツ文化享受にも格差は拡大・固定化していくのではないか。経済のグローバル化、情報化の進展が激しく、半世紀前の我が国のようなテンポを許さぬことに困難を思わせる。しかし岬のピアノから四半世紀、同じグローバリズムの下、日本でも激しいバックラッシュが起こっている。 翻ってドイツだが、教育といえば知・徳・体と来る儒教文化圏と異なる、事物・自己・社会という能力カテゴリーにまず唸らされる。列挙される社会的能力の目的はグループ学習で育てたい力の範型を思わせる。私たちも一度このように自分の言葉でめざす学力像を記述すべきだろう。科学や民主主義のために体育は何を教えるべきかという深い教育政策が西欧の文化や市民性を（ついでに福井支部「高校男女共習タッチフット」ジェンダーフリー実践の原点も）つくっている。さすがベートーベンやヘーゲル、マルクスを産んだ重厚な歴史と環境政策などに見られる市民社会の成熟を思わせるが、ここには西欧世界の前世紀までの植民地主義的富と文化の蓄積がある。 田崎忍の『ベッカムに恋して』の映画評がここに焦点を当てる。映画自体がイギリスの中のインドを映し、優れたグローバリズム批評であるが、田崎の誠実なインド理解がこれをスポーツ批評の好論にしている。田崎はいつか前田支部長がＨＰで触れていたサッカーボール製造の裏話を詳しく紹介している。インド、パキスタンの児童労働によって多国籍スポーツ企業が巨利を得ている。そのサッカーボールが「アフガンの子どもたちに夢を」などと、日本ではチャリティーに使われる。24時間ＴＶが戦禍の子どもを訪ね募金を訴える。同じ系列の新聞が自衛隊のイラク派兵を煽っている。グローバリズムとはいったい何だろう。 ナイキ75000人のマレーシア女工一年分の給料（時給15￠）はマイケル・ジョーダンのＣＭギャラよりも安いそうだ（二宮厚美「現代資本主義と新自由主義の暴走」）。グロバール資本主義には格差が必要なのだ。格差こそ持てるものを潤す富の源泉、魔法の杖だ。日本は欧米をめざし、アジアは日本をめざし、経済のグローバル化と情報化に乗って欧米文化のグローバル化、スポーツのグローバル化が進む。放送局や受像器の要らないインターネットの普及により貧しい南の諸国でもそれは進み、これが民主化にも力を発揮し、地球は文化的に一つに繋がり、市場は一つに繋がり、収奪は強まり、戦争はビジネスになる。構造的暴力と非暴力の文化が一緒くたに押し寄せる。グローバリズムによる後進性と地域性と高度な消費文化の混在…。それは戦後日本の姿でもない。アジアはどこに向かうのだろう。 網羅的な調査バッテリーで「東アジアの子どもの体力・健康・体育・生活比較調査」（口野隆史）がなされる。日本とアジアの何を明らかにするのか、仮説を読みたいと思った。（浪 速男） （おおさか同志会ニュース ２００３．９． №３２０から －たのスポ一番搾り－） |
| 読もうよ９月号 池内和子 少しでもたのスポを読んでくれる人が増えてくれるようにということでこのコーナーを担当し、２年続けてきました。愛知支部では増がなく、数としては効果がありませんでしたが、内容としては私自身たのスポがくればすぐ読みきり、たのスポを身近に感じることができました。このコーナーも今回が最後です。次からはもっと若々しい感性でたのスポを読んでほしいということで「たのスポモニター」というコーナーに替えていきます。たのスポがもっと読まれるように忌憚のない意見を寄せていただけたらと思います。 ９月号を見ると、「図書紹介に本の写真が入るといい」「私と子どもたちは字体を変えて、随筆風に」という私が言ったことが確実に形として表れています。モニターになった人にはたのスポをプレゼントしますので感想を書いてください。頼まれたら締切を守って原稿を送ってくださいね。あなたの声がたのスポを変えます。たのスポを変えるのはあなたです。 さて、９月号は体育の総合型学習というテーマです。総合が始まるまでは「どうする総合」ということで、研究会など「総合」という名のつく分科会にはたくさんの人が集まっていました。ところが総合が始まるや、人が減ってしまっているという状態は、定着したと見るべきか、こんなもんでしょと見るべきか。総合は１０年は続かないとも言われているので、今までののんびりパターンをとりこんで、どんなふうにも変身できるようにやっていくというか、現場は、今、総合より学力に傾いていっています。そこを敢えて総合型学習ということで北海道に編集を依頼された意図は何だったのでしょうか。 意図を探るという点では、制野さんの文がとてもよくわかります。体育の学習を生かして、自分たちで運営する力にまで高めていくということや、行事に取り組んでいくという点で総合をとらえているのは、教科外体育の範囲中と考えているからでしょうか。 小学校では、総合というと、北海道の中島さんのような地域の素材を生かしたことを取り上げることが多いと思います。山内さんの器械運動も総合と考えるのかな？ ことばのとらえ方が曖昧な分、内容が統一されていない感じがしました。しかし、とても読みやすいたのスポになったなと思います。 「私の指導案」では、絵がとてもわかりやすく、やってみたいと思いました。取っ組み合ったり、体を触れ合うことが希薄になっているので、とても大切なことだと思います。 「教材１２ヶ月」「私たちの授業研究」など、２～４ページで絵や指導案がのったものが増えると使いやすいなあと思います 先日、昔の「子どもと教育」の雑誌を見ていたら、今、超有名な山口小の陰山さんが載っていた。それは、１００マス計算ではなく、全校あげて器械運動に取り組んでいるという実践だった。山内先生のようなことを、同志会の成果を生かして５年より前からやっていたのだ。山の中の小さな学校が肥満防止にと始めたことだ。放課後にもマット、鉄棒を出しっ放しにし、縦割りで学習していくというもの。山内実践も「確かな学力」なんてタイトルをつけたら大人気になるかも。誰でもできる実践プラス今の子どもたちにこそやらせたい実践が、同志会の実践なのですから、広めていきたいものです。 （愛知支部ニュース「たのスポあいち」２００３年１０月号 から） |